第６話

　説明を聞くと意外な事に、彼女の化粧気のない顔が向日葵が太陽を向いて花咲くように僕を見上げたから、柄にもなく目を奪われてしまった。

　（普段、こんなに思いっきり笑顔になる人を見慣れていないから）

　自分に言い訳しながら、コホンと咳払いをして気持ちを調えた。

　「では……？」

　「あ、ブレンドコーヒーください」

　彼女はそのままの笑顔を向けて注文した。「承知いたしました」反射的に答えたけれど、僕は彼女の飾らない笑顔から目が離せない。この笑顔のまま、コーヒーを飲んでほしいのに。
　きっと今日もブラックコーヒーに口を付けたら、「苦っ」と顔をしかめてしまうのだろう。値段もブレンドコーヒーとフレッシュジュースではほとんど変わらないのに、なぜ彼女は苦手なブラックコーヒーを飲むのだろう？　やっぱり理解できない。

　メニューを閉じて片付けながら、僕はため息をつきそうになった。こんなとき、「たまにはカフェモカとかどう？　飲みやすいよ」などと言えたら、どんなにいいだろう。しかしカフェのマスターたるもの、お客様の選択にけちを付けるようなことは出来ない。

　カウンターに戻り動き回っていると、彼女の視線を感じた。
　
　（私のどこが面白いのだろう）

　彼女とはかけ離れた世界に住んでいるような気がするのだろうか。