第49話

文字数 545文字

 対向車も後ろから走ってくる車もないので、慎重に車をUターンさせる。何しろ道の向こう側は崖なのだ。車をゆっくり走らせながら、曲がり道を探す。先ほど通り過ぎた小さな滝。カーナビによると、このあたりに……。

 「まさか……?」

 確かに細い小径があった。車が一台、やっと通れる位の細い道だ。舗装されていないけもの道だと思ったが、車を走らせてみると、木の葉が降りつもっているだけで、地面は舗装されていた。一応、カーナビに表示されるだけのことはある、と変なことに感心してしまう。

 対向車が来たらどうしたらいいのだろう。すれ違えない程の細い道を車で走ることは、めったにないので落ちつかない。こんなにのどかな道に不安な気持ちなど似合わないけれど、仕方がない。一本道なのに、カーナビの地図を何度も確認してしまう。車の側面を道にはみ出している草がこする。
 そして僕の不安は的中した。

 『目的地周辺です。運転お疲れ様でした』

 カーナビが告げた場所は、山に行きあたっている場所、つまり行き止まりだった。

 「勘弁してくれよー。どうすりゃいいんだよ。Uターンも出来ないじゃないか……」

 ハンドルの上部を両手で掴み、(あご)を乗せた。

 「はー。」

 ため息をつく。もうすぐ十二時だ。杏さん、お昼ご飯、食べちゃうかな……。
    
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み