第21話

文字数 571文字

 奏さんは杏さんを見つめた。胸を突かれたように息を詰まらせていたが、やがてつかえていたものが取れたみたいに息を吐きだすと、また吸い込んで一気に話し出した。

 「杏さん。ありがとう。私……。お腹が大きい時から、元気な赤ちゃんを産んでねって食事をご馳走になることもあったし、会社で回ってくる誰かのお土産のお菓子だって、赤ちゃんの分ね、とオマケしてもらうこともあって、ありがたいなって思ってました。

 自分でも妊娠がわかってからは、アルコールは控えていたし、農薬や産地にも気をつけていましたし。
 だけど、だけど今ね。杏さんに卵を私に、ってもらって。
 あっ、最近、自分のために食べていなかったなあ、って……。頑張ってくれている自分の体とそして心も、自分で大事にしてなかったなあ、って思って……。

 子供を保育園に預けることが出来て、皆はラッキーだったねと言ってくれますし、自分でもそう思うんです。でも子供も私も保育園になれていないし、夜もゆっくり寝られない。復帰したばかりの仕事は、ブランクを早く取り戻そうといっぱいいっぱいだし……。」

 すうっ、はあっ。奏さんは肩で息をした。潜っていた水の中から浮かび上がった時みたいに。

 「私、疲れてたんですね……。ううん。そうじゃなくて……、ええと。」奏さんは少し考えてからポツリと言った。「私、がんばってた」

    
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