第4話

文字数 587文字

 なぜなら一番最初に目に飛び込んでくるのは、彼女の胸元にぶら下がっている何かの(きば)の手作りネックレスなのだ。目にしたとたん誰もが戦意を喪失してしまうのも不思議はない。牙の大きさは少なくとも十センチはある。牙のネックレスはカントリー調の彼女の服に合っていなくもないが、やはり少し剣呑ではある。

 (なぜ、牙? そもそもなんの牙? 誰の手作り?)

 首を傾げて、体ごと自分のテーブルに向き直ったお客様の頭の上には、クエスチョンマークがいくつも浮かんでいる。
 答えてあげたいが、それは何回も同じ光景を目にした僕にも未だに解けない謎なのだ。

 オーバーオールの中は白いシャツだが、かなり年季もののようだ。洗濯後の清潔感はあるが、なんとなく着古してくたびれている。
 化粧気のない顔には夏の名残の日焼けがまだ残っている。丸い頬はほお紅を掃いたように、ほんのり紅い。よく見ると素朴だが可愛らしい顔立ちと言えなくもない。年齢は不詳だ。範囲を限定するのは難しいが、あえて言うなら二十代半ばから三十代半ば位か。かなり大雑多だが、僕と同じくらいだろう。

 はたして月曜日の今日も、彼女はカフェ・エスペランサにやってきた。
 
 「ブレンドコーヒーを」

 注文する物もいつもと同じ。

 (だけどなぜなんだ……)

 僕は疑問に思う。胸の辺りがもやもやする。
 
 (どう見ても、ブラックコーヒーが好きだとは思えない)

    
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み