第107話

文字数 572文字

 意識してしまうと渚さんが残していってくれた、ホームパーティーの後のような空気が消えてしまう気がする。だから無理やりデザートのフォンダンショコラを温めることに意識を向けたところで、他のデザートでもいいのだとふと気が付いた。

 「杏さん。デザートは何がいいですか? 卵かけご飯のお礼に、なんでも好きな物を選んでください」

 「そんな。悪いですよ。」

 「あの卵かけご飯、今まで食べた卵かけご飯の中で一番おいしかったですから」

 「あははっ! 卵はチャボさんが産んでくれただけで、私は何も」

 「杏さんが育てた自慢のチャボさんでしょ? 育てるの上手なんですね、生き物。野菜も生き物ですよね」

 「あっ、そうですね。育てるのが得意、って思ったことなかったですけど、もしかしたら一番得意なことかもしれないです」

 「盲導犬もドアから入ってきて、杏さんのところにまっしぐらでしたよ。本当は土の匂いがしたから、とかそういう理由じゃなかったんじゃないかなあ」

 「そう、かもしれません。なぜか動物には好かれるんですよ。多分、私のにおいだと思うんですけど、変なにおいだったら嫌だなあ」

 「ははっ。においじゃないですよ、生き物に好かれる理由は。杏さんは……」

 惹きつけられるんです。という言葉を飲み込んで言い換える。

 「杏さんは一番得意な事をお仕事にしているんですね」
 
    
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