第27話

文字数 563文字

 花束は杏さんを思わせるような黄色い花束だった。僕には小さなヒマワリのような花しか分からなかったが、悔しいけれど明るい陽だまりのような杏さんのイメージによく合っている。
 点数稼ぐよなあ。こっちはエスペランサの店主として、特別扱いするわけにいかないんだよ。
 全く面白くなかった。いつもなら楽しみな杏さんの来店だが、今日はまだ来て欲しくないような気がした。

 カランカラン。

 ドアベルが鳴った。見なくても分かる。杏さんだ。いつも同じ時間に杏さんはやってくる。しかし……、

 「杏さん!」

 「いらっしゃいませ」と僕が声をかける前に蒔田がスツールから立ち上がって、親しげに杏さんに手を振った。
 待ちあわせしていたんだろうか? 僕は焦って杏さんの顔を見た。杏さんの表情は読みやすいから。

 (あ……。なんだ、待ちあわせじゃなかったのか。よかったー)

 杏さんのビックリ! の顔を見て安心した。

 「いらっしゃいませ」

 気を取り直して杏さんに声をかける。杏さんはほんの少し、目を見開いて、口元を引き締めて横に引いた。軽く会釈をして、いつもの二人がけの丸いテーブルに向かおうとした。

 「杏さん。いつもお世話になっています。蒔田(まきた)(りょう)です」
 
 隣の席の椅子を少し引いて、どうぞと手で誘う。杏さんはどうしようかな、というように首を傾げた。

 「あの、杏さん。」
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