第41話

文字数 575文字

 会話の内容は何でもいい。珈琲の事でも、杏さんが作る野菜の事でも、なんだったらワイドショーの話題でも政治の話でも、杏さんと話すならきっと楽しいはずだという気がする。
 
 「なぜでしょうね」

 どうして杏さんと話したい気持ちになるのか自分でも分からないので、渚さんに質問を返してみた。優秀な人は聞かれるとなんでも、何かしらの答えを提示してくれる。

 「なんでかな。杏さんて、低反発枕、みたいな感じじゃない? だからかな」

 「低反発枕、ですか?」

 磨いていたグラスを棚に仕舞い、渚さんの前に移動する。もう少し詳しく聞きたくなった。渚さんはフレッシュミックスジュースのグラスを置くと言った。

 「ほら。低反発枕って、手で抑えるとぐーって手の形に沈むでしょう? 手を離すと、ゆーっくり元の形に戻ってくる。」

 渚さんは手で架空の枕を押す仕草をしてみせる。手振りが大きいのは、外資系の企業に勤めているせいかもしれない。

 「そうですね」

 「杏さんは、そういう感じ。何か話すとぐーって何でも一旦受け止めて、その形に沈みこんじゃうの。それからゆっくり戻ってきて、杏さんはいつもの杏さんに戻る」

 「ああ……。そうですね。」
 
 「こっちが変なことを言っても、パーンと跳ね返ったりはしなくて、フワッと受け止めてくれて、じわーっと返してくれる。でも杏さんはやっぱり杏さんなの」
    
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