第46話

文字数 535文字

 日曜日、僕はカーオーディオに合わせて歌いながらボロい愛車に乗っていた。杏さんの農園に行くために。一人で。もともと農園に行くはずだった蒔田は、助手席にも乗っていない。
 赤信号で長袖のTシャツを肘の下までくるくると捲り上げた。暑いわけではなかったけれど、つい腕まくりしたくなってしまったのだ。
 パンツは細身のチノクロス、靴は履き古したスニーカー。これなら杏さんの農作業も手伝えそうだと勝手に頬が緩んだ。
 さらに今朝一番のラッキーを思い出すと、いつの間にか昔観た洋画の名前も知らないサントラを口ずさんでいた。普段は忘れているのに、気分がいいといつの間にか歌っている曲だ。

 今朝早く、僕はロールスクリーンを下ろしたままのエスペランサの店内で、杏さんに差し入れるサンドイッチを、透明でパリパリ音をたてるフィルムに包んでいた。卵とレタスを挟んだクロワッサンサンド。ライ麦パンにローストチキンとチーズ、トマト、レタスを挟んだサンドイッチ。アボカドとレモン塩で香ばしく焼いたエビとレタスのバゲットサンド。

 淹れ立てのコーヒーをガラスのポットから、赤いチェックの柄の水筒にうつし入れているところで、携帯電話がなったのだ。着信音を変えてあるので、画面を確認しなくてもすぐに蒔田だと分かる。
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