第82話

文字数 578文字

 「あはは。ケンちゃん、知っているでしょ。私、株好きだから。ケンちゃんのことも、上がるかなーって楽しみにしているからいいんだよ。上がらなくても、ずっと持っている株は愛着あるし、株主優待もあるし、ね」
 
 渚さんは指輪を()めた手をけんちゃんに振ってみせた。ケンちゃんは真っ赤になった。そしておもむろに砂糖の入った白い壺を手に取ると、カプチーノにバサッと砂糖を振りかけた。渚さんが止める間もなかった。

 「あれっあれっ」

 カウンターからは見えないが、しゅわしゅわと絵が崩れていく様子は目に浮かぶ。

 「アハハ! もー、ケンちゃん!」

 ケンちゃんが慌てふためく様子に渚さんは笑いころげて、目じりの涙を指先で拭った。

 「ごめんね、なぎちゃん」

 ケンちゃんは消えていくカプチーノの絵を悲しそうに見つめた。

 「いいんだよ。美味しく飲むのが一番。絵はもう見たよ。見えなくてもカプチーノに溶けてるから大丈夫」

 「さ、飲んで」と渚さんはスプーンで砂糖をかき混ぜた。くずれた絵は綺麗なマーブル模様になった。

 「渚さん」ケンちゃんがカプチーノを飲み始めるのをみて、杏さんが言った。「ケンちゃんさんが、本当に浮気していたら、生殺与奪権は行使されたんですか?」

 「もちろんよ。」

 渚さんはキッパリと断言した。

 「ええっ! 生殺与奪権?! なにそれっ。なぎちゃーん、そりゃないよー」

    
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