第65話

文字数 510文字

 月曜日の朝八時半。
 カランカランとエスペランサのドアベルが鳴る。

 「いらっしゃいませ、杏さん」

  杏さんは少し慎重な足取りで、いつもの二人掛けのテーブルについた。
 すでにカウンター席に座っていた常連客の渚さんが、体を半分だけ杏さんの方に振り向けて声をかけた。

 「おかえり、杏さん」

杏さんは目を見開いてビックリ!の顔になった。

 「あっ、はい。えーとただいま……?」

 少し間があいて、小さな声で答えると、店内のあちこちから「おかえり」「杏さん、おかえり」という声がかぶさった。杏さんはさらに目を見開いたかと思うと、今度は顔全部で笑った。

 「ただいまっ!」

 立ち上がって他のお客様に向かって、お辞儀をしながら言った。

 「マスター、フレッシュミックスジュースくださーい」
 「ベジ&チキンサンドね」
 「フィローネパンのグリルサンド。自家製トマトソースお願いします」

 店内からはおかえりの数だけ、杏さんの野菜を使ったメニューの追加のオーダーが入った。僕はおかえり、とは言わないかわりに杏さんのテーブルにメニューをもっていった。

 「新しいメニューが追加になっております。お勧めですよ」と付け加えて、杏さんのオーダーを待つ。


    
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