第14話

文字数 542文字

 「先日はありがとうございました。お礼に一杯ご馳走させていただきたいのですが、アレルギーやお嫌いな物はありますか?」

 店から一杯奢ることを前提にして聞く。
 
 「なんでも大丈夫です。でも、お礼なんていらないです。あの子を連れて帰れたし」

 (あの子?! あの蛇の事か?)

 内心の動揺を隠して、微笑んだ。

 「お店からの気持ちですから。それにあの時、珈琲飲めませんでしたよね? それではカプチーノをお持ちしますね」

 「ありがとうございます」

 (嬉しい)と言わなくても、うれしいんだな、とすぐ分かる。都会にあふれている思わせぶりな態度に慣れた僕には、杏さんのまじりっけなしの感情が眩しかった。杏さんはかけひきなど関係のない世界に住んでいるのだろう。
 今度こそ、自然に穏やかな笑みを浮かべて杏さんの瞳をのぞき込んだ。そして僕が思った通り杏さんが耳まで真っ赤になって、うつむくのを見ると嬉しくなった。
 うぶな田舎の女性をおとすなんて簡単なんじゃないかと思っている自分に気が付いて、少し焦る。やっぱりそれは不遜(ふそん)な考え方だろうから。

 お辞儀をひとつして、はやる気持ちを抑えてカウンターに戻った。僕は大きめのカップを手に取ると、ゆっくりエスプレッソをカップに注ぎ、その上にフォームミルクをふわっとのせた。
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