第83話
文字数 424文字
すかさずケンちゃんが泣き声で訴える。さすが芸人だ。ツッコミに迷いがない。
笑い転げている渚さんは幸せそうで、とても別れを考えていた人には見えなかった。僕と杏さんと顔を見合わせて、くすりと笑いあった。
渚さんはアプリコットコーヒーをごくりと飲み干すと、ケンちゃんを急かしてエスペランサを後にした。婚姻届けを取りに行くのだと言っていた。
心温まる一幕だと思うが、僕は気が気じゃなかった。蒔田がカウンターでずっと肩を震わせていたからだ。
「おい、こら。なんで笑ってるんだよ」
蒔田の脇腹をズン、とつつく。
「だって仕方ないだろ。浮気していたらどうするつもりだったんですか? って、なかなか本人を前にして聞けないぞ。杏さん、最高だ」
蒔田はくっくと笑いながら、肩越しに杏さんをチラチラと見ている。恋のライバル名簿に載っている蒔田の名前が、何度も上書きされて色濃くなっていくようで、僕はそっとため息をついた。
(やめてくれよ? 蒔田は強敵なんだから……)
笑い転げている渚さんは幸せそうで、とても別れを考えていた人には見えなかった。僕と杏さんと顔を見合わせて、くすりと笑いあった。
渚さんはアプリコットコーヒーをごくりと飲み干すと、ケンちゃんを急かしてエスペランサを後にした。婚姻届けを取りに行くのだと言っていた。
心温まる一幕だと思うが、僕は気が気じゃなかった。蒔田がカウンターでずっと肩を震わせていたからだ。
「おい、こら。なんで笑ってるんだよ」
蒔田の脇腹をズン、とつつく。
「だって仕方ないだろ。浮気していたらどうするつもりだったんですか? って、なかなか本人を前にして聞けないぞ。杏さん、最高だ」
蒔田はくっくと笑いながら、肩越しに杏さんをチラチラと見ている。恋のライバル名簿に載っている蒔田の名前が、何度も上書きされて色濃くなっていくようで、僕はそっとため息をついた。
(やめてくれよ? 蒔田は強敵なんだから……)