第85話
文字数 481文字
杏さんのネックレスは、僕も以前から気になっていた。どうみても何かの牙だからだ。エスペランサのお客様が皆、口には出さないものの、(あれは何だろう?)と思っているアイテムだ。
興味を引かれた店内のお客様が、何とはなしに口をつぐんだのだろう。急にはっきりと聞こえ出したBGMにのせて、杏さんが言った。
「これですか? イノシシの牙なんですよ」
イノシシだったのか……。謎がひとつ解けた。蒔田が杏さんの謎を解くのは気に入らないが、これまで誰も聞けなかったことなのだから、仕方がない。
「牙って硬いですよね? どうやって穴を開けたんですか?」
「あ、牙の中って空洞なんですよ。だからレジンっていう、紫外線で固まる液を流し込んで、留め具を入れて固めたんです。むしろ穴を埋める感じですね」
「へえーっ。牙の中って空洞なんだ?」
「そうなんですよ。硬そうに見えるのに意外ですよね」
楽しそうに話す杏さんがいつもよりもちょっと遠く見える。
アプリコットコーヒーを両手で挟んで持ち、杏さんはひとくち飲んだ。美味しそうなその顔は、逆立った僕の心を不思議にすーっと撫でた。
興味を引かれた店内のお客様が、何とはなしに口をつぐんだのだろう。急にはっきりと聞こえ出したBGMにのせて、杏さんが言った。
「これですか? イノシシの牙なんですよ」
イノシシだったのか……。謎がひとつ解けた。蒔田が杏さんの謎を解くのは気に入らないが、これまで誰も聞けなかったことなのだから、仕方がない。
「牙って硬いですよね? どうやって穴を開けたんですか?」
「あ、牙の中って空洞なんですよ。だからレジンっていう、紫外線で固まる液を流し込んで、留め具を入れて固めたんです。むしろ穴を埋める感じですね」
「へえーっ。牙の中って空洞なんだ?」
「そうなんですよ。硬そうに見えるのに意外ですよね」
楽しそうに話す杏さんがいつもよりもちょっと遠く見える。
アプリコットコーヒーを両手で挟んで持ち、杏さんはひとくち飲んだ。美味しそうなその顔は、逆立った僕の心を不思議にすーっと撫でた。