第40話

文字数 535文字

 曖昧に答えると、僕たちの会話に向けられていた注意は一斉に散っていった。自分でも冴えない答えだと思ったが、本当に知らないのだから仕方がない。渚さんはそんなことは気にせず、ただ、「ふーん」と言ってカウンターに(ひじ)をついた。
 ストローで飲み物を掻き回して、カラカラと氷を鳴らす。

 「せっかく、フレッシュミックスジュース、頼んでみたのになあ」

 と、僕にというよりも、ひとりごとだけど誰かに話したいという感じで言う。

 「そう言えば、渚さんはいつもエスプレッソでしたよね」

 今頃気が付いたの? というように渚さんは肩をすくめてから、さらに続けた。

 「杏さんと相席しようと企んでたのよ」

 「企んでた……ですか?」

 「そう。相談事とか、そういうんじゃないの。ただ……、他愛もない話をしたかっただけ。マスターにデザインカプチーノを煎れてもらって、杏さんと一緒に見たいなーって。それだけなんだけど」

 「ああ……」

 僕は頷いた。もしかしたら、僕も同じかもしれない。杏さんが何を飲んでも、誰と話していても、一人でいても、杏さんがエスペランサに来てくれるだけでもいい。
 そう思っていたけれど、渚さんが杏さんと話したかった、と話すのを聞くと、僕も杏さんと話したいと思っている事に気が付いた。
    
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