第50話

文字数 558文字

 助手席に乗せてある、ビニール袋を覗き込みサンドイッチと赤いチェックの水筒を見る。すごく美味しそうだ。当たり前だ。僕が作ったんだから。

 手を伸ばしてサンドイッチと水筒を掴むと、車を降りた。目的地周辺なんだろ? 見つけてやろうじゃないか。
 車を降りて歩いてみると、草に隠れて見えなかったが細い道があった。車も回せそうだったが、帰る時のためにUターンするのは後回しにして、そのまま歩くことにした。
 舗装されていない道をあてもなく歩いて行くと、草の上に左右に動くものが見えた。杏さんだ! 僕に向かって、手を振りながらピョンピョン跳びはねている。

 「杏さん!」

 大声で名前を呼ぶ。杏さんがさらにピョンピョン跳びはねる。僕も水筒を持った手を持ち上げてみせた。
 
 「杏さん、なんで僕が来たのが分かったんですか?」

 「蒔田さんが電話をくれたんです。マスターにお昼を持って行かせるからって。それにここまで山を上がって来る人はいないんです。だから車のエンジンの音が聞こえて来たので、マスターかなって。」

 杏さんと話ながら少し歩く。
 蒔田、サンキュー!と心の中で手を合わせる。正直なところ、山奥でひとりさまようことになっていたら、かなり心細かっただろう。

 「ちょっとだけ、待っていてもらえますか? やりかけのがもう少しなんです」

    
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