激動の革命政権
文字数 1,183文字
宣戦布告の前。革命が成ったばかりの共和国首都。
革命軍第三師団長のクローゼ中将は、同僚の将官数名と共に公宮の門を潜った。共和国に改名しているため、厳密には元・公宮だ。かつては豪奢な金細工が騒がしかった回廊の壁面は、革命勃発時に雪崩れ込んだ民衆の手にむしり尽くされて、今ではよじれた雑巾のように醜くゆがんでいる。
この惨状を嘆くであろう宮殿の元・所有者は目下のところ行方知れず。一説には海を越え、はるか南方のプロイセンにまで落ち延びたとか。
クローゼたちが訪れたのは、その元・大公夫妻の寝室だった。
現在、この部屋は革命議会議長のプレーゲルがねぐらに使っている。プレーゲルは革命の最高指導者の地位にあるため、彼を現時点での宮殿の主と見なしてもよさそうなものだったが、少なくともクローゼには異論があった。部屋を接収して以来、大半の時間をそのベッドの居心地を確かめることに費やしている姿を見る限りでは。
「ほうっ、ほうっ、」
その夜もプレーゲルは、初めてベッドを与えられた子供のようにマットから飛び跳ねながら来訪者たちを迎えた。どれくらい跳ね続けていたのか、息を切らしている。
「これはこれは、お歴々がこぞってどうなさいましたかな」
美声だ。枕元には積み上げたハチミツの瓶。紡ぎだす美辞麗句と、声そのものの熱量が自分の取柄であることを理解しているらしい。この数か月、彼の吐き出した言葉が雪玉のように国内を転がり、民衆を、軍隊を巻き込み、革命という得体の知れない塊へと変わったのだから大したものだ。
しかし、作り上げることと、その上に君臨することは別問題ではないか――クローゼは以前から疑念を抱いていた。
「無礼を承知で申し上げます、議長閣下」
敬礼しながら、クローゼは訊く。
「宮殿を落とし、はや一週間となります。今後の軍事行動について、方針をお聞かせいただけないでしょうか」
「こんごの、軍事」
背中に重心をつくって器用に転がり跳ねながら、議長はオウム返しに呟いた。
「諸外国についてです。現在、この継水半島で人民による統治を謳うは我が国のみ。フランス革命がそうであったように、早晩、他国との間に戦端が開かれましょう。どのような策を考えておられますか」
クローゼが疑問を述べると、議長は目を丸くした後に大笑した。
「はははは。それは決まりきった話でしょう」
正座で跳ねた。
「市民が!農民が!あなたたち軍人が!周辺諸国に出向けばよいのです!そして高らかに告げるのです。我が国は、階級を廃した平等な社会に生まれ変わりましたと。そうすれば」
「そうすれば?」
金属製の何かが、クローゼの横でかちりと鳴った。
「たちまち他国にも革命の火の手が上がり、瞬く間に、我らと志を同じくする国々が出来上がることでしょう!」
室内に銃声が響いた。