王国の狂気
文字数 3,947文字
「粘りますな」
グロチウスの傍らでクローゼが首を捻っている。
「あの横列をくずせば、総崩れになると思われるのですが、存外、しぶといようで」
「先ほど報告があった」
グロチウスは手をかざして前方を見る。
「摂政殿下とやらが、最前線で督戦に励んでいるらしい」
「国家元首自らがですか?」
クローゼは信じられない、という風に肩をいからせた。
「それも、十代前半の少年が……そのような勇敢さを持ちうるものでしょうか」
「侮ってはいかん。市民も色々、貴族も様々、君主も色々だ。惰弱な君主ばかりであれば、そもそも王制などといった代物が千年以上、存続するわけはない。我が国の君主は大した器ではなかった。だから革命は成った。しかし、そうでもない君主も存在するはずだ」
グロチウスは声を張り上げる。
「そのような、立派な君主にこそ、我々は勝利しなければならんのだ。『立派な王であれば、市民に統治させるより優れている』そのような理屈を通してはならん。そういう意味で考えるならば」
老将は敵陣を睨み、さらに語勢を上げた。
「敵勢の中にいる十四歳の君主。実権など持たぬかも知れぬ。強制された勇気かもしれぬ。それでもなお、こいつこそが我々の、革命の真の敵ということになる。ようやく現れてくれたな。立ちふさがってくれたな……お前こそ、倒すべき相手、首をとるべき敵だ……」
複数の手がサキを支え、頭部に治療を施している。
頭がくらくらする。包帯を巻きすぎたせいか、注がれた酒精のせいだろうか。
動悸が、寒気が、総身の揺れが最大の振り幅で、地面が裏返る心地だ。
サキは意識を失うまいと懸命だった。
今、自分が倒れれば前線が崩れる。すべてが終わる。
それだけを考えろ。僕は旗。上等な旗。何が何でも旗。
伝令が途絶えたため、最高指揮官であるサキでさえ戦況を把握していない。
せいぜい、視界が届く範囲の鉄と肉のけずり合いがわかるだけ。今は双眼鏡を覗く余裕すらなく、わずかな視野すら包帯と、血煙と、泡立つ隊列に遮られてしまう。
なんとか姿勢を整え、目元だけ包帯を緩める。
血の色が、屋台の鮮やかなお菓子を思い出させる。
ザッカーヘルズが食べたい。帰ったら、真っ先に。
銃撃の間を縫って押し寄せてきた敵騎兵が、肩を押さえて手前に倒れ、黒毛の馬もバランスを崩して横倒れになった。腹の筋肉が波打つ様は、まるで暗闇に流れ込む濁流だ。
見とれて、意識が引っ張られる。
「時間だ。そろそろ時間……」
サキは懐中時計をまさぐった。 カザルスの作戦。その成否が、そろそろ判明する刻限のはずだ。連絡は、伝令はまだか……
「申し上げます。国境付近に展開しておりました我が軍、奮戦の甲斐なく、潰走いたしました。」
馬蹄の響きと共にグロチウスの前に駆け込んできたのは、国境から自軍が寄越した伝令だった。馬から降りる時間も惜しいと言わんばかりに、体を斜めにして話す。
「わたくしの時計にて、十五時間前の事象となります。まことに申し訳ございません」
伝令自身の顔にも、埃と疲労が張り付いていた。
「いや、期待以上に保ってくれた」
グロチウスは労いの言葉をかける。国境線上に展開していた革命軍は、敵の正規戦力を誘導するためだけの寄せ集めだ。敵が総攻撃をかければ瓦解することは目に見えていた。
敵正規軍の指揮官にも、王都間近まで革命軍が迫っているという状況は伝わっているはずだ。しかしすぐさま踵を返して王都に舞い戻ることは難しい。張りぼてに近いとは言え、敵軍に背を向けて大軍を動かすわけにはいかないからだ。
つまり国境線上の革命軍を敗走させなければ王国の正規軍はこちらへ戻ってこれない。練度の違いからしてこちらの敗北は避けられないだろうが、それまでにどれくらいの時間を要するかで、作戦全体の成否が決まる。
老将の計算では、十五時間前まで粘り続けてくれたのであれば、上出来だった。
再び伝令を労い、天幕で休ませる。傍らで聞いていたクローゼの表情が明るい。
「これで敵の正規軍は間に合いませんな、確実に」
グロチウスは頷いた。敵の正規軍四万がこちらへ帰りつくには最低でも二日は必要だろう。一部だけ帰らせるにしても、今回、グロチウスが行たったような分割行進を用意もなしで実行するのは困難だ。どれだけ早く見積もったとしても、一日半はかかる。
眼前の王国軍を蹴散らし、王都を炎に包むのには十分すぎる時間だ。
老将は安堵の溜息をついた。あくまで周囲に気取られぬ程度の細やかなものだったが。
そのとき、再び馬蹄の響きが耳に飛び込んできた。
振り向くと先ほどとは別の伝令が、馬から転げ落ちそうにこちらを覗き込んでいる。先の伝令より余裕がない。表情が土気色だ。
「落ち着け、水は摂ったか?」
クローゼが気遣わしげに声をかける。
「国境線が崩れたという報告なら、もう到着しているが」
伝令は、万が一敵に捕縛されでもしたら、重要な報告を届けることができない。特に敵地では、同一内容の伝令を複数送ることが軍事の常識だった。到着時刻に隔たりが少ないため、同じ報告が届けられたのだろうとグロチウスは推測したのだが、
「そのあと、のことにございます」
二人目の伝令は鐙から足を滑らせ、落馬しそうになって近くの兵士に慌てて支えてもらう。
「我が軍を潰走させた後、敵軍は、敵主力は……」
「こちらへ向かって、反転したのだな?」
クローゼが話を引き取る。だが伝令の余りの慌てように、グロチウスは疑念を抱いた。
「そう、では、ないのです」
血を吐くように、伝令は告げる。
「敵主力はそのまま国境線を超え、我が共和国に侵攻を開始しております」
鉛弾を撃ち込まれたような衝撃が走る。
「侵攻だと?」
老将の驚愕を、クローゼが代弁してくれる。
「何を言うのだ。あり得ぬ。我が軍が、この国の首都に攻めかかる寸前なのだぞ?その状況で、この国の主力が、全くお構いなしに我が国に攻め込んだ?」
クローゼの頬に、玉の汗が流れる。
「正気の沙汰ではないっ」
「侮った。この私としたことが」
両眼を細め、グロチウスはこぶしを強くテーブルに振り下ろした。平静とは異なる振る舞いに、副官が目を丸くする。瞬時に自分を取り戻し、老将はなだめるように手を開く。
「私は感心したのだ。最近立てたばかりの君主とはいえ、権限は持たぬだろう十四歳とはいえ、仮にも一国の長を餌にして、王都を守ろうというやり方に」
しかし興奮は抑えられず、指先が妙に熱い。
「生餌にした君主に食いつかせることで、王都から臣民が避難する時間と、国境線から正規軍が戻ってくる時間を稼ぐつもりだろうと思い込んでいた。だが違う。そうではなかった!釣り糸に、『決闘の王子』を垂らしてみせたのは」
掌にも、汗が浮いている。戦場でこれほど動揺を覚えたのは、何時以来だろうか。
「援軍が間に合ったときのためではない。援軍が来ると、我らに思いこませるためだ」
「思いこませた?」
クローゼは見えない飴玉を頬張るように口を大きく開けた。
「我らが餌に釘付けとなる時間を使い、本国を落とすつもりなのだ。つまり援軍は来ない。少なくとも、ここまでは戻ってくるまい」
「しかしそれでは、摂政を見捨てることになるでしょう」
「その通り、見捨てるのだ!あなどった。奴らを侮った。革命に酔い、我らは思い上がっていたのだ!」
グロチウスは自嘲する。増長は判断を鈍らせると平素から肝に銘じているはずが、敵を、王国を見くびったのだ。
国公を追い出し、市民革命を成し遂げた自分たちとは異なり、いまだに専制君主などというまがいものをあがめたてまつる遅れた連中だと――だからそのような愚者たちが、仮にも国政の最高位にあるものを捨て石に使うなど、思いもよらなかったのだ。
その思考の盲点を、敵はついてきた。侵攻の対象が王都でなかったなら、率いるのが君主でなかったなら!戦略としては単純すぎる陽動に過ぎないというのに!
「見事だ。いまいましくも、実に炯眼」
名も知らぬ敵国の将官を、グロチウスは称えた。一拍置いて、静かに副官へ告げる。
「撤退だ」
「……やむを得ませんか」
「クローゼの表情は咎めるものではなかったが、それでも老将は後ろめたさを覚えた。
このまま敵軍を粉砕して、王都を陥とすという選択肢は、グロチウスには許されない。
そのようなことをすれば、本国の人民を見殺しにしたとの謗りは免れず、最悪、革命軍は崩壊するだろう。
王国軍の場合、その心配は薄い。見捨てられた側に国政の最高位がいるからだ。少年摂政が危険に身を晒しているからこそ、国民も納得してくれるのだ。同じことを革命軍がやろうとするならば、今から共和国首都に連絡して革命政府の議員達に覚悟を決めてもらうしかない。
しかし、議員達が承諾してくれたとしても、彼らの献身が国民の眼にどう映るかは怪しいところだ。何しろ成立したばかりの革命政府。「本当は真っ先に逃げ出すようなお偉い方が、捨石になってくれている。だから俺達も我慢しよう」という効果を得るには、どの議員も知名度が不足しているからだ。
ここまで来たというのに、踵を返す他にない。
せめて王都に肉薄したという事実だけでも、諸国の首脳陣を心胆寒からしめる材料になってくれればよいのだが。
理想を胸に抱き、立ち上がった革命の兵士たち。たとえ敗北するとしても、彼らの思いが塵と消えるなど、許しがたい。
前線に送る指示を頭で組み立てながら、歴戦の将は一つの覚悟を固めつつあった。
グロチウスの傍らでクローゼが首を捻っている。
「あの横列をくずせば、総崩れになると思われるのですが、存外、しぶといようで」
「先ほど報告があった」
グロチウスは手をかざして前方を見る。
「摂政殿下とやらが、最前線で督戦に励んでいるらしい」
「国家元首自らがですか?」
クローゼは信じられない、という風に肩をいからせた。
「それも、十代前半の少年が……そのような勇敢さを持ちうるものでしょうか」
「侮ってはいかん。市民も色々、貴族も様々、君主も色々だ。惰弱な君主ばかりであれば、そもそも王制などといった代物が千年以上、存続するわけはない。我が国の君主は大した器ではなかった。だから革命は成った。しかし、そうでもない君主も存在するはずだ」
グロチウスは声を張り上げる。
「そのような、立派な君主にこそ、我々は勝利しなければならんのだ。『立派な王であれば、市民に統治させるより優れている』そのような理屈を通してはならん。そういう意味で考えるならば」
老将は敵陣を睨み、さらに語勢を上げた。
「敵勢の中にいる十四歳の君主。実権など持たぬかも知れぬ。強制された勇気かもしれぬ。それでもなお、こいつこそが我々の、革命の真の敵ということになる。ようやく現れてくれたな。立ちふさがってくれたな……お前こそ、倒すべき相手、首をとるべき敵だ……」
複数の手がサキを支え、頭部に治療を施している。
頭がくらくらする。包帯を巻きすぎたせいか、注がれた酒精のせいだろうか。
動悸が、寒気が、総身の揺れが最大の振り幅で、地面が裏返る心地だ。
サキは意識を失うまいと懸命だった。
今、自分が倒れれば前線が崩れる。すべてが終わる。
それだけを考えろ。僕は旗。上等な旗。何が何でも旗。
伝令が途絶えたため、最高指揮官であるサキでさえ戦況を把握していない。
せいぜい、視界が届く範囲の鉄と肉のけずり合いがわかるだけ。今は双眼鏡を覗く余裕すらなく、わずかな視野すら包帯と、血煙と、泡立つ隊列に遮られてしまう。
なんとか姿勢を整え、目元だけ包帯を緩める。
血の色が、屋台の鮮やかなお菓子を思い出させる。
ザッカーヘルズが食べたい。帰ったら、真っ先に。
銃撃の間を縫って押し寄せてきた敵騎兵が、肩を押さえて手前に倒れ、黒毛の馬もバランスを崩して横倒れになった。腹の筋肉が波打つ様は、まるで暗闇に流れ込む濁流だ。
見とれて、意識が引っ張られる。
「時間だ。そろそろ時間……」
サキは懐中時計をまさぐった。 カザルスの作戦。その成否が、そろそろ判明する刻限のはずだ。連絡は、伝令はまだか……
「申し上げます。国境付近に展開しておりました我が軍、奮戦の甲斐なく、潰走いたしました。」
馬蹄の響きと共にグロチウスの前に駆け込んできたのは、国境から自軍が寄越した伝令だった。馬から降りる時間も惜しいと言わんばかりに、体を斜めにして話す。
「わたくしの時計にて、十五時間前の事象となります。まことに申し訳ございません」
伝令自身の顔にも、埃と疲労が張り付いていた。
「いや、期待以上に保ってくれた」
グロチウスは労いの言葉をかける。国境線上に展開していた革命軍は、敵の正規戦力を誘導するためだけの寄せ集めだ。敵が総攻撃をかければ瓦解することは目に見えていた。
敵正規軍の指揮官にも、王都間近まで革命軍が迫っているという状況は伝わっているはずだ。しかしすぐさま踵を返して王都に舞い戻ることは難しい。張りぼてに近いとは言え、敵軍に背を向けて大軍を動かすわけにはいかないからだ。
つまり国境線上の革命軍を敗走させなければ王国の正規軍はこちらへ戻ってこれない。練度の違いからしてこちらの敗北は避けられないだろうが、それまでにどれくらいの時間を要するかで、作戦全体の成否が決まる。
老将の計算では、十五時間前まで粘り続けてくれたのであれば、上出来だった。
再び伝令を労い、天幕で休ませる。傍らで聞いていたクローゼの表情が明るい。
「これで敵の正規軍は間に合いませんな、確実に」
グロチウスは頷いた。敵の正規軍四万がこちらへ帰りつくには最低でも二日は必要だろう。一部だけ帰らせるにしても、今回、グロチウスが行たったような分割行進を用意もなしで実行するのは困難だ。どれだけ早く見積もったとしても、一日半はかかる。
眼前の王国軍を蹴散らし、王都を炎に包むのには十分すぎる時間だ。
老将は安堵の溜息をついた。あくまで周囲に気取られぬ程度の細やかなものだったが。
そのとき、再び馬蹄の響きが耳に飛び込んできた。
振り向くと先ほどとは別の伝令が、馬から転げ落ちそうにこちらを覗き込んでいる。先の伝令より余裕がない。表情が土気色だ。
「落ち着け、水は摂ったか?」
クローゼが気遣わしげに声をかける。
「国境線が崩れたという報告なら、もう到着しているが」
伝令は、万が一敵に捕縛されでもしたら、重要な報告を届けることができない。特に敵地では、同一内容の伝令を複数送ることが軍事の常識だった。到着時刻に隔たりが少ないため、同じ報告が届けられたのだろうとグロチウスは推測したのだが、
「そのあと、のことにございます」
二人目の伝令は鐙から足を滑らせ、落馬しそうになって近くの兵士に慌てて支えてもらう。
「我が軍を潰走させた後、敵軍は、敵主力は……」
「こちらへ向かって、反転したのだな?」
クローゼが話を引き取る。だが伝令の余りの慌てように、グロチウスは疑念を抱いた。
「そう、では、ないのです」
血を吐くように、伝令は告げる。
「敵主力はそのまま国境線を超え、我が共和国に侵攻を開始しております」
鉛弾を撃ち込まれたような衝撃が走る。
「侵攻だと?」
老将の驚愕を、クローゼが代弁してくれる。
「何を言うのだ。あり得ぬ。我が軍が、この国の首都に攻めかかる寸前なのだぞ?その状況で、この国の主力が、全くお構いなしに我が国に攻め込んだ?」
クローゼの頬に、玉の汗が流れる。
「正気の沙汰ではないっ」
「侮った。この私としたことが」
両眼を細め、グロチウスはこぶしを強くテーブルに振り下ろした。平静とは異なる振る舞いに、副官が目を丸くする。瞬時に自分を取り戻し、老将はなだめるように手を開く。
「私は感心したのだ。最近立てたばかりの君主とはいえ、権限は持たぬだろう十四歳とはいえ、仮にも一国の長を餌にして、王都を守ろうというやり方に」
しかし興奮は抑えられず、指先が妙に熱い。
「生餌にした君主に食いつかせることで、王都から臣民が避難する時間と、国境線から正規軍が戻ってくる時間を稼ぐつもりだろうと思い込んでいた。だが違う。そうではなかった!釣り糸に、『決闘の王子』を垂らしてみせたのは」
掌にも、汗が浮いている。戦場でこれほど動揺を覚えたのは、何時以来だろうか。
「援軍が間に合ったときのためではない。援軍が来ると、我らに思いこませるためだ」
「思いこませた?」
クローゼは見えない飴玉を頬張るように口を大きく開けた。
「我らが餌に釘付けとなる時間を使い、本国を落とすつもりなのだ。つまり援軍は来ない。少なくとも、ここまでは戻ってくるまい」
「しかしそれでは、摂政を見捨てることになるでしょう」
「その通り、見捨てるのだ!あなどった。奴らを侮った。革命に酔い、我らは思い上がっていたのだ!」
グロチウスは自嘲する。増長は判断を鈍らせると平素から肝に銘じているはずが、敵を、王国を見くびったのだ。
国公を追い出し、市民革命を成し遂げた自分たちとは異なり、いまだに専制君主などというまがいものをあがめたてまつる遅れた連中だと――だからそのような愚者たちが、仮にも国政の最高位にあるものを捨て石に使うなど、思いもよらなかったのだ。
その思考の盲点を、敵はついてきた。侵攻の対象が王都でなかったなら、率いるのが君主でなかったなら!戦略としては単純すぎる陽動に過ぎないというのに!
「見事だ。いまいましくも、実に炯眼」
名も知らぬ敵国の将官を、グロチウスは称えた。一拍置いて、静かに副官へ告げる。
「撤退だ」
「……やむを得ませんか」
「クローゼの表情は咎めるものではなかったが、それでも老将は後ろめたさを覚えた。
このまま敵軍を粉砕して、王都を陥とすという選択肢は、グロチウスには許されない。
そのようなことをすれば、本国の人民を見殺しにしたとの謗りは免れず、最悪、革命軍は崩壊するだろう。
王国軍の場合、その心配は薄い。見捨てられた側に国政の最高位がいるからだ。少年摂政が危険に身を晒しているからこそ、国民も納得してくれるのだ。同じことを革命軍がやろうとするならば、今から共和国首都に連絡して革命政府の議員達に覚悟を決めてもらうしかない。
しかし、議員達が承諾してくれたとしても、彼らの献身が国民の眼にどう映るかは怪しいところだ。何しろ成立したばかりの革命政府。「本当は真っ先に逃げ出すようなお偉い方が、捨石になってくれている。だから俺達も我慢しよう」という効果を得るには、どの議員も知名度が不足しているからだ。
ここまで来たというのに、踵を返す他にない。
せめて王都に肉薄したという事実だけでも、諸国の首脳陣を心胆寒からしめる材料になってくれればよいのだが。
理想を胸に抱き、立ち上がった革命の兵士たち。たとえ敗北するとしても、彼らの思いが塵と消えるなど、許しがたい。
前線に送る指示を頭で組み立てながら、歴戦の将は一つの覚悟を固めつつあった。