拒絶
文字数 3,989文字
「ごめん、本当にごめん」
その日の夜、レンカ城でカヤに面会したサキが最初にしたことは、出生の秘密を暴露されてしまった件についての謝罪だった。
カヤが議長の婚外子だった事実は、サキにとっても晴天の霹靂だったので、謝る必要はないといえばないのだが、サキがもう少し上手く立ち回ればーーーたとえばカヤの無罪に関して微塵の疑いもない証拠を提出できていたならーーーー秘密は秘密のままで終わったかもしれない。そういう意味で、サキは申し訳ない気持ちだった。
「サキが謝ることじゃあないってば」
打ち消すように、カヤは両手を振った。まあ、そう言ってくれるだろうとはサキも思っていた。
ぬいぐるみに覆われた監獄には、カヤとサキ、ニコラとコレートの四名。
「色々頑張ってくれたじゃない。おかげで私の首はまだ繋がってる。命が一番大事だよ」
笑顔が弱々しい。そして本日もまだ、筆を握っていない。カヤに何が起こっているのだろう、とサキは訝った。サキの中で、カヤという画家は命の危機が迫っていようとお構いなしに筆を操り続ける絵画の奴隷だった。死の危険、という意味では戦場にいたときと同様なのに、今の彼女は絵から離れている。
「無理はしないでね。うれしいけど」
視線を天井に反らしてカヤは言う。
「私を助けようとすることが、サキを危なくさせたり、この国をおかしくしてしまうようだったら、止めてもらってもいいんだよ」
「迷惑なのですか」
ニコラが口を挟んだ。
「迷惑なんて、そんな」
カヤが目を丸くする。
「殺されそうなんだからさ。助けてもらいたいに決まってるじゃない」
「でも、大事にはしてほしくない、と?」
ニコラは目を細める。傍らのコレートが眉を顰めていた。
「世の中を乱さない程度に、納得がいくまでサキには頑張ってもらいたい。でも自分が助からなくても問題はない」
姉の声が詰問調に変わっている。サキに対してならともかく、カヤには滅多に見せない厳しさだ。
「もう、半分くらいは諦めているのではないですか?」
「姉上、どうしたんです急に」
サキが問いかけるが、ニコラは答えず、
「率直に聞きますね、カヤ」
カヤを見据えて、言った。
「サキの証拠集めを妨害しましたね?」
ため息をつくコレート、彫像のように固まったカヤと、彼女に視線を送るニコラを眺めながら、サキはどう反応してよいものか迷っていた。結局、素直に疑問を口にする。
「姉上、どうしてそんな風に思ったんですか」
「サキ、あなたが受けた妨害は二つでしたね」
ニコラはカヤを見つめ続けながら言う。
「一つ。豪雨の日に『偽手紙』でこのレンカ城へ誘き出され、増水に閉じこめられてしまった。二つ。カヤのお父様から調査用の画工を借り受けるつもりが、猥褻図画を販売しているとの密告を受けて果たせなかった。いずれの妨害行動も、状況を細部まで把握していなければ採れない手段です」
ニコラは監獄の窓に視線を移した。
「増水は溜め池の水門開放が招いたものでした。いつ頃水門を開くか、どれくらいで川を渡れなくなるくらい増水するか、このレンカにいなければ、決定権のあるコレート様に話を聞いていなければ推量できません」
「たしかに当日、水門の開放についてカヤさんにお話ししました」
コレートが首を傾げながら言う。
「けど、それだけで決めつけるわけには・・」
「密告の問題もあります」
姉は絵筆を持っていないことを咎めるように、カヤの手元に目をやった。
「調査を進めるために、カヤのお父様の工房で働いている画工を借り受けてはどうかとサキに提案したのは、わたしです。自分で言ってしまいますが、これはなかなかに奇抜な発想です。にも関わらず、妨害者は的確な手を打ってきたのです」
「つまり画工を利用する案を知っていた。あるいは予想できた、という意味ですのね」
コレートは深刻な表情で頷いた。
「いずれも、単独では決めつけがたい論拠です。しかし二つ合わされば、それなりの強度が生まれます。
「ふたつの邪魔が」
カヤはかすれ声で反論する。
「同じ人間がしたものじゃなかったらどうする?できるよ。私以外にも」
「それはその通りです」
意外にも、ニコラは認めた。
「ぬれぎぬであれば謝罪します。ですから答えてください、カヤ。調査を妨害したのはあなたですね」
「知らない・・・」
カヤは口ごもる。こんなに脆い彼女を、サキは初めて見た。
「カヤ」
ニコラはカヤに近づいた。
「偽るのですか。それがあなたの生き方ですか。『少女帝王学教室』のあの日に誓った、あなたの生き方なのですか?」
その言葉にどのような重さが含まれていたのか。
カヤはびくりと身を震わせた。毒でも回ったのか、と心配したくらいだ。
それからしばらく沈黙した後に、
「そうだよ」
はっきりと聞き取れる声で、カヤは言った。
「わたしが手紙を送った。増水の日にサキへ。サキが帰った後に、公序良俗委員会へ・・・」
「手紙の発送を承ったのはわたしです」
コレートが胸に手を当てて言う。
「もうしわけありません。わたしも共犯ですわ」
「どうしてだよ」
サキはカヤの手を取った。
「なんでそんな、自分の死を早めるようなこと・・」
「言いたくない」カヤは俯いた。
「カヤさん」
コレートが労るような声を出す。
「一国の君主ともあろうお方が、あなたを助けるために尽力されているのです。拒絶されるのはあなたの勝手かもしれませんが、こうなった以上、せめて理由はお話ししましょう」
カヤは両手で顔を覆い、数秒を経て顔を上げる。
「ゴメン。ごめん、なさい。ごめんサキ」
笑いながら泣いていた。
「私、黒繭家でよく遊んでたよね。家庭教師のとき以外もさ。サキにちょっかい出したり、絵を描いたりさ。私、お気に入りだったんだよ。あなたのこと。どうしてだか、わかる?」
答えの難しい問題だった。サキにとって、カヤが周囲をうろついている風景は日常そのものだったからだ。
「わからないよ。僕みたいな、ふわふわした、中身のない、権力権力うるさいやつとどうして一緒に居てくれたのかなんて」
「それはね」
泣き顔から真顔に凍り付く。
「ふわふわした、中身のない、権力権力うるさいやつだからだよ」
再びカヤは笑顔を見せた。自害する女優のような、諧謔を張り付けた笑顔だ。
堰を切ったように、カヤは語り始めた。
「わたしは権力者の子供だった。権力者に見初められたひとの子供だった。権力者に養子を押しつけられた家の子供だった・・・勘違いしないでほしいけど、どっちのお父さんも優しくしてくれたし、きょうだいたちとも仲良くやってこれたよ?それでも私は、赤薔薇のお父さんが許せなかった」
赤薔薇のお父さんとはグリムのことだろう。お父さんと呼びながら、許せない、とも言うのだ。
「サキも知ってるでしょう。わたしは一度眼にしたものを忘れない」
カヤは掌で右目の横を触る。
「ずっとそうなの。生まれたときからね。だから私は、お母さんの姿を覚えてる。まだ赤ん坊の私の前で、一度だけ、踊りを見せてくれたんだ」
ほんの一瞬、カヤはいつも纏っていた絵描きの表情に戻る。
「研ぎ澄まされた舞だった。つま先から頭の上まで、硬くてしなやかな鋼の線が走って見えるような、確かな踊りだった。あの舞を記憶から取り出して、誰でも鑑賞できるよう額縁に納めるために、私は絵を描き始めたんだよ。でも」
悔しそうに目元をくしゃくしゃにする。
「描き続けるうちに、理解してしまった。お母さんの踊りは完璧じゃあなかった。もっとすばらしい形があって、それがぼろぼろに崩れ落ちる前の最後の輝きだったの。その完璧を壊したのがお父さんだった。権力で、母さんを篭に閉じこめて衰えさせてしまったんだ・・・・」
サキは思い知る。本質的に、自分は芸術家とも、芸術愛好家とも遠いようだ。カヤの嘆きを、理屈でしか理解できない。
「恐ろしくなったの。あんなに美しいものを台無しにした後ろ暗いものの庇護を受けて、私は生きている。それが許せなかった。おぞましかった。だからサキと一緒にいるのは楽しかったよ。名門なのにお芝居だけにかかりきりになっている家の子で、権力がほしい、力が欲しい、冠がないとか騒いでる、口先だけの権力亡者だったから」
サキが黙っていると、少女は不服そうに口を尖らせた。
「怒らないんだね、サキ」
「いや、納得したから。怒れない」
「あはは」
今度は病人みたいな笑い声だ。
「それもおしまい。サキも本当の権力者になっちゃったから」
少女の瞳が陰る。
「お父さんが殺されたのは悲しかった。でもそれよりもっと恐ろしいのは、私の有罪無罪を巡って国を割るような騒動が持ち上がっていること。サキ、脅してるんだよね。評議会を。私を無理矢理に有罪にしたら、民衆を扇動して国をばらばらにするって・・・」
新聞を読んだのか。サキは自分の発言を後悔する。新聞記者には民衆を扇動する可能性について詳細には伝えていないはずだが、読解力がある人間なら、察するだろう。
「あれは、言葉のあやというか駆け引き上のものだから」
「駆け引きが成り立つってことは、そういうことをする可能性があるってことでしょう?」
カヤは声を荒げた。
「実際、今のサキは評議会の運用を曲げている。私は否定したいの。私を助けるために、権力の化け物を生み出したくはない。大事な友達に、そうなってほしくない。少しでもそんな可能性があるのなら」
目を閉じ、カヤはわずかに頭を下げた。
柔らかい仕草なのに、強い拒絶を感じる。
「もういい。死んでもかまわない。だからサキ、もう、私を放っておいて」
その日の夜、レンカ城でカヤに面会したサキが最初にしたことは、出生の秘密を暴露されてしまった件についての謝罪だった。
カヤが議長の婚外子だった事実は、サキにとっても晴天の霹靂だったので、謝る必要はないといえばないのだが、サキがもう少し上手く立ち回ればーーーたとえばカヤの無罪に関して微塵の疑いもない証拠を提出できていたならーーーー秘密は秘密のままで終わったかもしれない。そういう意味で、サキは申し訳ない気持ちだった。
「サキが謝ることじゃあないってば」
打ち消すように、カヤは両手を振った。まあ、そう言ってくれるだろうとはサキも思っていた。
ぬいぐるみに覆われた監獄には、カヤとサキ、ニコラとコレートの四名。
「色々頑張ってくれたじゃない。おかげで私の首はまだ繋がってる。命が一番大事だよ」
笑顔が弱々しい。そして本日もまだ、筆を握っていない。カヤに何が起こっているのだろう、とサキは訝った。サキの中で、カヤという画家は命の危機が迫っていようとお構いなしに筆を操り続ける絵画の奴隷だった。死の危険、という意味では戦場にいたときと同様なのに、今の彼女は絵から離れている。
「無理はしないでね。うれしいけど」
視線を天井に反らしてカヤは言う。
「私を助けようとすることが、サキを危なくさせたり、この国をおかしくしてしまうようだったら、止めてもらってもいいんだよ」
「迷惑なのですか」
ニコラが口を挟んだ。
「迷惑なんて、そんな」
カヤが目を丸くする。
「殺されそうなんだからさ。助けてもらいたいに決まってるじゃない」
「でも、大事にはしてほしくない、と?」
ニコラは目を細める。傍らのコレートが眉を顰めていた。
「世の中を乱さない程度に、納得がいくまでサキには頑張ってもらいたい。でも自分が助からなくても問題はない」
姉の声が詰問調に変わっている。サキに対してならともかく、カヤには滅多に見せない厳しさだ。
「もう、半分くらいは諦めているのではないですか?」
「姉上、どうしたんです急に」
サキが問いかけるが、ニコラは答えず、
「率直に聞きますね、カヤ」
カヤを見据えて、言った。
「サキの証拠集めを妨害しましたね?」
ため息をつくコレート、彫像のように固まったカヤと、彼女に視線を送るニコラを眺めながら、サキはどう反応してよいものか迷っていた。結局、素直に疑問を口にする。
「姉上、どうしてそんな風に思ったんですか」
「サキ、あなたが受けた妨害は二つでしたね」
ニコラはカヤを見つめ続けながら言う。
「一つ。豪雨の日に『偽手紙』でこのレンカ城へ誘き出され、増水に閉じこめられてしまった。二つ。カヤのお父様から調査用の画工を借り受けるつもりが、猥褻図画を販売しているとの密告を受けて果たせなかった。いずれの妨害行動も、状況を細部まで把握していなければ採れない手段です」
ニコラは監獄の窓に視線を移した。
「増水は溜め池の水門開放が招いたものでした。いつ頃水門を開くか、どれくらいで川を渡れなくなるくらい増水するか、このレンカにいなければ、決定権のあるコレート様に話を聞いていなければ推量できません」
「たしかに当日、水門の開放についてカヤさんにお話ししました」
コレートが首を傾げながら言う。
「けど、それだけで決めつけるわけには・・」
「密告の問題もあります」
姉は絵筆を持っていないことを咎めるように、カヤの手元に目をやった。
「調査を進めるために、カヤのお父様の工房で働いている画工を借り受けてはどうかとサキに提案したのは、わたしです。自分で言ってしまいますが、これはなかなかに奇抜な発想です。にも関わらず、妨害者は的確な手を打ってきたのです」
「つまり画工を利用する案を知っていた。あるいは予想できた、という意味ですのね」
コレートは深刻な表情で頷いた。
「いずれも、単独では決めつけがたい論拠です。しかし二つ合わされば、それなりの強度が生まれます。
「ふたつの邪魔が」
カヤはかすれ声で反論する。
「同じ人間がしたものじゃなかったらどうする?できるよ。私以外にも」
「それはその通りです」
意外にも、ニコラは認めた。
「ぬれぎぬであれば謝罪します。ですから答えてください、カヤ。調査を妨害したのはあなたですね」
「知らない・・・」
カヤは口ごもる。こんなに脆い彼女を、サキは初めて見た。
「カヤ」
ニコラはカヤに近づいた。
「偽るのですか。それがあなたの生き方ですか。『少女帝王学教室』のあの日に誓った、あなたの生き方なのですか?」
その言葉にどのような重さが含まれていたのか。
カヤはびくりと身を震わせた。毒でも回ったのか、と心配したくらいだ。
それからしばらく沈黙した後に、
「そうだよ」
はっきりと聞き取れる声で、カヤは言った。
「わたしが手紙を送った。増水の日にサキへ。サキが帰った後に、公序良俗委員会へ・・・」
「手紙の発送を承ったのはわたしです」
コレートが胸に手を当てて言う。
「もうしわけありません。わたしも共犯ですわ」
「どうしてだよ」
サキはカヤの手を取った。
「なんでそんな、自分の死を早めるようなこと・・」
「言いたくない」カヤは俯いた。
「カヤさん」
コレートが労るような声を出す。
「一国の君主ともあろうお方が、あなたを助けるために尽力されているのです。拒絶されるのはあなたの勝手かもしれませんが、こうなった以上、せめて理由はお話ししましょう」
カヤは両手で顔を覆い、数秒を経て顔を上げる。
「ゴメン。ごめん、なさい。ごめんサキ」
笑いながら泣いていた。
「私、黒繭家でよく遊んでたよね。家庭教師のとき以外もさ。サキにちょっかい出したり、絵を描いたりさ。私、お気に入りだったんだよ。あなたのこと。どうしてだか、わかる?」
答えの難しい問題だった。サキにとって、カヤが周囲をうろついている風景は日常そのものだったからだ。
「わからないよ。僕みたいな、ふわふわした、中身のない、権力権力うるさいやつとどうして一緒に居てくれたのかなんて」
「それはね」
泣き顔から真顔に凍り付く。
「ふわふわした、中身のない、権力権力うるさいやつだからだよ」
再びカヤは笑顔を見せた。自害する女優のような、諧謔を張り付けた笑顔だ。
堰を切ったように、カヤは語り始めた。
「わたしは権力者の子供だった。権力者に見初められたひとの子供だった。権力者に養子を押しつけられた家の子供だった・・・勘違いしないでほしいけど、どっちのお父さんも優しくしてくれたし、きょうだいたちとも仲良くやってこれたよ?それでも私は、赤薔薇のお父さんが許せなかった」
赤薔薇のお父さんとはグリムのことだろう。お父さんと呼びながら、許せない、とも言うのだ。
「サキも知ってるでしょう。わたしは一度眼にしたものを忘れない」
カヤは掌で右目の横を触る。
「ずっとそうなの。生まれたときからね。だから私は、お母さんの姿を覚えてる。まだ赤ん坊の私の前で、一度だけ、踊りを見せてくれたんだ」
ほんの一瞬、カヤはいつも纏っていた絵描きの表情に戻る。
「研ぎ澄まされた舞だった。つま先から頭の上まで、硬くてしなやかな鋼の線が走って見えるような、確かな踊りだった。あの舞を記憶から取り出して、誰でも鑑賞できるよう額縁に納めるために、私は絵を描き始めたんだよ。でも」
悔しそうに目元をくしゃくしゃにする。
「描き続けるうちに、理解してしまった。お母さんの踊りは完璧じゃあなかった。もっとすばらしい形があって、それがぼろぼろに崩れ落ちる前の最後の輝きだったの。その完璧を壊したのがお父さんだった。権力で、母さんを篭に閉じこめて衰えさせてしまったんだ・・・・」
サキは思い知る。本質的に、自分は芸術家とも、芸術愛好家とも遠いようだ。カヤの嘆きを、理屈でしか理解できない。
「恐ろしくなったの。あんなに美しいものを台無しにした後ろ暗いものの庇護を受けて、私は生きている。それが許せなかった。おぞましかった。だからサキと一緒にいるのは楽しかったよ。名門なのにお芝居だけにかかりきりになっている家の子で、権力がほしい、力が欲しい、冠がないとか騒いでる、口先だけの権力亡者だったから」
サキが黙っていると、少女は不服そうに口を尖らせた。
「怒らないんだね、サキ」
「いや、納得したから。怒れない」
「あはは」
今度は病人みたいな笑い声だ。
「それもおしまい。サキも本当の権力者になっちゃったから」
少女の瞳が陰る。
「お父さんが殺されたのは悲しかった。でもそれよりもっと恐ろしいのは、私の有罪無罪を巡って国を割るような騒動が持ち上がっていること。サキ、脅してるんだよね。評議会を。私を無理矢理に有罪にしたら、民衆を扇動して国をばらばらにするって・・・」
新聞を読んだのか。サキは自分の発言を後悔する。新聞記者には民衆を扇動する可能性について詳細には伝えていないはずだが、読解力がある人間なら、察するだろう。
「あれは、言葉のあやというか駆け引き上のものだから」
「駆け引きが成り立つってことは、そういうことをする可能性があるってことでしょう?」
カヤは声を荒げた。
「実際、今のサキは評議会の運用を曲げている。私は否定したいの。私を助けるために、権力の化け物を生み出したくはない。大事な友達に、そうなってほしくない。少しでもそんな可能性があるのなら」
目を閉じ、カヤはわずかに頭を下げた。
柔らかい仕草なのに、強い拒絶を感じる。
「もういい。死んでもかまわない。だからサキ、もう、私を放っておいて」