お香作りとお返しランチ  

文字数 1,228文字

娘と同じ小学校に通う日本人のママ友二人をランチに招いた。毎日育児と仕事で手いっぱいで、家に人を呼ぶなんて久しぶりだった。

オーストラリアの小学校は6学年と、その前年に「プレップ」と呼ばれる準備期間の学年がある。それで小学校は7年間になるのだけれど、二人は娘のプレップ時代からの友人である。今日は先月Yさんにお香づくりを教えてもらったお礼のランチ。

私はお香が好きで、毎朝4時に起きて自分の書斎に入って、まずすることといえばお香を焚く。そのお香が、自分の好みの香りで作れる!?というので、Yさんのご好意に甘えることにしたのだった。

お香作りの工程は、何種類もあるパウダー状のお香から好きな香りを選んで、ブレンドして、練り合わせて、円錐状に形を作って、乾かすんだそう。そのとき辺りには「和」の香りが漂い、練り合わせるときには書道の墨を磨るように一種の精神統一ができる。一種の瞑想状態。たぶん。そこはかとなぁい癒し系のやさし~い静けさに包まれるハズだ。そう、一人で作れば―

実際は作っている間も私たちのおしゃべりは止まず、できあがった私のお香なんか恐ろしく歪になっていた。それでもブレンドの方はYさんにやってもらったので、京都の古寺を思わせる美しい香りに仕上がったのだった。

お香作りなんて風流な趣味をもつYさんは、駐在員のご主人と家族で引っ越してこられたときに日本から香作り一式を持ってきたのだそうな。その貴重なお香を頂いたのだから、そのお礼に今日は侘び寂びの風情漂う和食でおもてなしをしようと思っていた。

だけど家事といえば炊事と洗濯がやっと、掃除に回す時間も気力もなく、我が家はいつも散らかり放題である。もうずいぶんと昔にモグラ叩きのような、片づける傍から散らかしてゆく子どもたち相手の片づけ合戦は止めにしていたので、人を呼ぶとなったらまずは家の片づけから始めなければならない。そうしてようやっと大人の入れる空間になったときには既に疲れ果て、時計を見るや蒼ざめた。

自分はもともと料理も苦手なのに焦って作ったら恐ろしい代物ができそうで、あらかじめ考えていた和食献立は止めにして急遽、失敗の少なそうなメニューに変えた。侘び寂びのワの字もない、エビとコーンのグラタンをオープンに突っ込む。2歳児ママってことで大目に見てくれることを願いつつ…。

するとYさんが手土産に、なんとシュークリームを焼いてきてくれたじゃあないの!? 噓でしょ、こ…れじゃあ、お礼にもなりゃしない…。

笑顔でグラタンを頬張るお二人が気の毒で、その背後からは後光が差しているように私には見えたのだった。

それにしても、こっちで暮らす日本人のママたちは料理が上手だ。手に入りにくいって事情があるので和菓子はもちろん、日本ふうのケーキや洋菓子も、なぁんでも驚くほど器用に作り上げてしまうんだ。そんな中でお茶を濁しまくっている我が身である。次こそは何か気の利いたおもてなしをしようと心から思った。

2008年6月19日

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