子どもの学校選びって…  

文字数 2,310文字

来年3歳になる息子の幼稚園選びでモンテッソーリ・スクールの説明会に行ってきた。

この学校はイタリアの女性教育家モンテッソーリの提唱した教育法に基づき運営されている。子どもの自主性が尊重され、子どもたちは競争ではなく協調性と協力関係を通して自由にいきいきと学ぶ姿勢を培ってゆく(ことを理念に掲げている)。クラスも同じ年の子たちで構成されるのではなく、3学年の子どもたちが一緒に同じ教室で学ぶ。年長の子が年下の子を助けて、互いに成長してゆけるように、と。

現在小学校1年生の娘も、オーストラリアの公立小学校に入るまではここのサイクル1幼児部で学んでいた。地元の公立幼稚園入学の抽選に落ちたがゆえの苦肉の選択ではあったけど、極端に内気だったメェには合っていたと思う。なにしろ当時の彼女は自分と同じ年頃の子が店先にいるだけで緊張して中に入れないような子だったのだから。それがモンテッソーリに通った2年間でかなり自信をつけたのだった。

にもかかわらず、そこを辞めて公立の小学校に移したのは、娘の自信が飛躍的に向上したというよりも、私自身が迷ったのだった。

一つには、メルボルンのモンテッソーリ・スクールは小学校までで中等部高等部がないので、子どもたちは多感な十代にアットホームに小さな世界から突如、競争激しい巨大マンモス校に放り込まれてしまうとか…。学園の外国語学習がモンテッソーリ誕生の地であるイタリア語で。別段イタリア語が云々というわけではなく、私としては娘に日本語を学んでもらいたかったとか…。

娘は幼稚園からジャパニーズスクールに通っている。土曜日だけの補習校だけど、そこの小学部に入ってからは文部科学省のカリキュラムに沿った国語と算数を学んでいる。でも子どもにとって毎日、1日の大半を過ごすオーストラリアの現地校って言うのは、すご~く重要な世界である。そこからぽっかり日本と言う存在が抜け落ちてしまうのが堪らなかった。

孫たちと言葉が通じなくて話ができないなんて事態にならないよう、子どもたちに日本語だけはきちんと教えるようにと両親から頼まれていたって事情もある。でもそれ以上に、子どもたちがまったく自分と違う土壌の人間になってしまうことが哀しかったのかもしれない。う~ん、今思えば親のエゴですよね。そういえば「Spanglish」って映画がありましたよね。裕福なWASPファミリーで住み込みでメイドをしながら子どもを育てるメキシコ移民の母親と娘のアイデンティティの話。

当時を振り返れば、メェが幼稚園で習ってきたと得意げに童謡を歌ってくれるときなんか、一緒に歌いだすダディンをよそに歌詞を知らず合唱に加われない自分にふと淋しさを覚えたり…。「先生が言ってたんだけどママ、ジーザスはねぇ」などと娘が聖書の逸話を話してくれたときなんか、愛らしい声に耳を傾けつつキリスト教徒ではない身、腑に落ちない思いを抱いたり…。していましたよねぇ。

だけど本当にそれで良かったのか? 

この日モンテッソーリの学校説明会で、全員が一人ひとりスピーチをしてくれた6年生を前にそう思った。全員といっても小さな学校なので十人ほどだったけど。その誰もがそれぞれの個性で、自分の言葉でいきいきと説明会に集まった親たちの質問に答えていた。少しシャイそうな男の子でさえ百人もの大人を前に自分の経験や気持ちを、ユーモラスに明確に説明してくれた。そんな子どもたちの姿に私は半ば感動してしまった。いきいきと育った子どもたち、そんな印象を受けたのだった。

私が考えていた以上にオーストラリアの小学校は競争が激しくて、陰に陽に、子どもたちは絶えず競争にさらされている。

ビクトリア州の小学校では、12月から翌年5月生まれの子どもたちに関しては親が入学の時を5歳からにするか翌年にするかを選べるので、同学年に2年近くの開きが出る。1月生まれの娘は既にジャパニーズスクールの幼児部を始めていたので、現地校も日本式に早く始めてしまった。

けれどその選択はオーストラリアでは稀だったようで、6歳のバースデーパーティーの招待状を送った翌月にクラスメイトから8歳の誕生日祝いの招待状が届いた。メェは、自分は背が低いと思っているけれど、月齢にすれば平均よりも高かった。自分の足はのろいと思い込んでいるけれど決して遅いわけではなく、クラスの中で最年少なだけだ。子どものころからそんなふうに自分の能力を見極めてしまうのは残念だと、やはり親としては思ってしまう。

モンテッソーリの説明会の帰りにダディンにその話をしたら、もともとモンテッソーリ派の夫、ただちに転校案を持ち出した。

え、いきなりそこまで飛ぶかっ!? 驚きつつも、現地校での娘のおどおどした姿に、さっき見た、自信あふれる子どもたちの笑顔が重なった。とりわけ親友が転校してしまった今、心配や不安は募るばかりで…。

結局、本人の心に探りを入れた。

学校は楽しい? モンテッソーリを覚えてる? 来年からムゥはそこに通い始めるけど、メェもそこの小学校に行きたい? セーラみたいに転校したい? 

可能な限り何気な~く、リラックスした雰囲気のなか娘の心理を探ろうとする。

と、メェは一言。「ねえマミィ、そんなことよりケロロが見たいよぉ」

そう、ケロロね。

ゲラゲラと「ケロロ軍曹」に大笑いする娘の朗らかな声に、早くも心配が溶けてしまう。

結局のところ、親は子どもにベストであると本人が思い込めることを与えて守ろうとするけれど、つまるところは子どもの柔軟さにはかなわないってことでしょうかね。

もう学校の話は止めて、私もメェとムゥと一緒に軍曹さんに笑った。

2008/8/21
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