水晶玉と笑うミディアム

文字数 2,435文字

友達から紹介された霊媒さんのところへサイキック・リーディングに行ってきた。

先日その友達と会ったとき、彼女が友人のホームパーティーで会った女性がミディアムだったのだと、興奮して話してくれたのだった。

世間話をしていたら、ふいに聞かれたんだそうだ。「で、あの件についてはどうなったの?」、と。

「あの件」とはまさに彼女の悩みだったから驚きのあまり「どうしてわかったの?」と尋ねてしまった。

するとその人は彼女の傍らを見て「あなたのお祖母ちゃんがそこに来ているから」と、お祖母ちゃんの話をしてから、自分が霊媒であることを告げたのだった。あの世にわたった霊と交信しながら霊視をするのだという。

それで友達は質問責めにしたらしい。すると霊媒さんは答えに詰まるたび「ほ~ら、グラン・マア、あなたの孫が知りたがってるのよ。もっと私たちを助けてちょうだい! カモン、カモ~ン」と両手をひらひらさせていたそうな。

話し終えた後に友達は言った。「あなたも興味あると思うんだけど」

そうして私はそれから2週間後には、件のミディアムさんの家を訪ねていたのだった。

通されたのは薄暗~い部屋だった。部屋のそこかしこにクリスタルとか、ネイティヴ・インディアンの絵とか、ニューエイジグッズみたいなものが飾られていて、なにやら妙におどろおどろしい。真ん中に大きな古い机が置いてあって、なにか異次元にでも迷い込んだかのような奇妙な空気が漂っていた。

私の前に座ったのは、50代くらいの長いグレーの髪を無造作に垂らした痩せぎすの女性だった。この禍々しい空間では、なんだか童話に出てくる魔法使いのおばあさんみたいだ。今にも水晶玉に両手を翳して蝋燭の炎の下、タロット・リーディングでも始めそうな雰囲気で。

でも口を開くと早口で、声がでかかった。
「で、コーヒー、紅茶? ミルクと砂糖は? 入れる? 入れないの? で、あれは誰だったの?」

矢継ぎ早に質問を発するその迫力たるや、これから神秘のリーディングが始まるというよりも、なんだか号令でもかけられて起立させられ、そのまま行進させられてラジオ体操でもさせられそうな勢いである。

「え、誰って…?」混乱しつつ、差し出されたコーヒーを一口とりあえず啜った。

「あなたが2、3歳のとき、足元に立って、あなたをひどく怖がらせた、あの存在のことよ。あなたは子どものころ見えない存在を見ていたわね。で、そのときあなたを怖がらせたのは誰だったのかって、聞いているの」

誰だったの?と言われても…。一般に人は2、3歳のころの記憶はあまりないもので…。言葉に窮していると、彼女は私の霊能力について話し始めた。私にはその力があるから使うべきだ、と。

それから、私が持ってきた写真を見ながら霊視を始めた。

実際、私は日本にいる祖母と母のことを心配していたのだけれど、彼女によれば、祖母は1年以内に逝くだろうが、母の方は心配ないという。母の首の痛みも、祖母と関係あることだから、祖母が逝った後はすう~っと消えてしまうだろう、と。

「あんたのお母さんとお祖母さんは、何度も転生を繰り返す、すっごく近い魂だからね。お母さんは、お祖母さんを守るために今回生まれてきたと言ってもいいくらいだよ。けどお母さんの方は大丈夫。彼女はまだまだ長生きするね。百歳はいけるんじゃないの」そう言ってミディアムさんは豪快に笑った。

確かに、祖母は母の母である。そうして昔、母が私に言ったことがあった。自分は幼いころから、姉が二人いたにもかかわらず、母のことは何があっても自分が一生面倒を見てあげなくてはならないと、なぜか強く思っていたのだ、と。

それから今度はダディンの写真を見て言った。
「彼のお父さんは3年前に亡くなっているね。写真はあるかい? ああ、ないのかい。 でも今日あんたと一緒にやってきたのは、その人だよ」

え、義父が!? 私と…? なんとなく感極まった私に、彼女は聞いてきた。

「彼が、自分の腕時計がどうなったかって聞いているけど」
「え、腕時計?」
「そう、腕時計。それをあんたの夫がちゃんと受け取ったかを知りたがっているんだよ」

時計については、義父がそれほど大切にしていた時計があったか私にはわからなかったので、後で夫に確認すると答えた。

それからミディアムさんは義父からのメッセージを伝えてくれた。ダディンと私を愛している、とか。孫たちをいつも見守っている、とか。時々私たちの家に様子を見に遊びに行っているとか、そんなことだった。

「キッチンで煙草の臭いがしたら、それは自分がきたサインだと思ってくれって言ってるよ」
「え? 煙草…? 義父は、確か煙草は吸わなかった、と…」
「もう何年も前に健康のために止めたのを、霊界でまた吸い始めたんだってさ。もう死ぬことはないからって。この人のジョークはつまらなくって、笑えるよ」とミディアムさんはまたもや豪快に笑うのであった。

家に帰ってから、ミディアムさんから言われたことをダディンにいくつか確認してみた。たとえば私は、義父が煙草を吸っていたとは知らなかったのだけれども、確かに昔は吸っていたそうだ。それを健康のために止めたという。

だが反面、たとえば彼女が言っていた腕時計のことは、ダディンにも何のことだかさっぱりわからなかった。というのも現役時代、仕事で毎朝早起きしなければならなかった義父は、引退してからすっかり時計嫌いになって、腕時計を持つのも止め、十年以上も時計とは無縁の生活を送っていたというから。

リーディングを終えて2週間近くが経った今、これを書いていて本物だったのかと問われれば、正直よくわからない。実際、胡散臭かったしな。一般的なことを言っていたといえばそんな気もするし…。

とはいえミディアムさんは、見かけとは裏腹に気さくでおもしろい方だった。それで私もうきうきするような不思議で楽しい時間を過ごさせてもらったことは事実デス。サイキック・リーディング、楽しかった!

 2008/9/16
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