メェ、親友の転校

文字数 1,193文字

いつものように息子をバギーに乗せて、娘を小学校へお迎えに行った。教室の前で待っていると、勢いよく教室から飛び出してくる子どもたちの後ろから娘がのろのろと現れた。その表情がいつになく暗い。

どうやら親友のセーラちゃんが今日は欠席したらしい。いつもなら学校から解放された嬉しさで弾けんばかりなのに今日はどぉんよりと、一人ぶつぶつ呟いている。

「セーラ、かぜでもひいたのかなぁ?」
「かぜ、はやってるものね」
「それとももう新しい学校に…うつっちゃったのかなぁ?」
「つぎのガッキからだって…言っていたのにね」

「ねえメェ、セーラのママが、転校は来学期からだって言ってたよ。大丈夫、セーラ明日は来るよ」と慰め、思う。

それじゃあ今日は誰と遊んだのだろうか?

メェがクラスの女の子たちの名前を何人かあげたので、ほっとした。

けれど帰り道、ふいにぽつりと言ったのだった。
「ママ、メェはね、今日はずっとイマジナリー・フレンドと遊んでいたんだよ」

ええーっ、想像上の友達と遊んでいたのぉぉぉ!? ずっとぉ!!

「モーニングティーも、ランチもね、その子と食べたんだよ」
「メェはね、一人ぼっちのときはいっつもイマジナリー・フレンドと遊ぶから、ぜんぜんさびしくないんだよ」
「その子がいっつもとなりにいてくれるから、一人ぼっちじゃないの」

そ…うなのか。この子は今日ず~っと一人でいたのか…。モーニングティーのフルーツも、お弁当も一人で食べて、あの、プレップに通い始めたころにメェが言っていた「気が遠くなるほど長~い昼休み」も、ずうっと一人で遊んでいたのね…。

ちなみにメルボルンの小学校では給食も清掃の時間もない。それで極力教室を汚さないようにという配慮からか、子どもたちはランチボックスを手に外に出て、校庭でおやつやランチを食べるんだ。

校庭でひとりぼっちでランチボックスを広げている小さな娘の姿が、嫌でも瞼に浮かんでしまう。淋しさを紛らわすために架空の友達といる自分を想像するという娘の、心の豊かさを喜ばしく思う反面、やはり―。

だけどここで母親まで心配してしまっては、それが伝わって、娘を余計に不安にさせてしまうだろう。そもそも彼女は私を思って、最初に尋ねたときに、友達とワイワイ食べただなどと嘘をついたんだろうし…。ああ、ますます切ないゾ。

だけど実際この学期が終わったら、セーラちゃんは転校するのだろう。親友の消えた学校でこの子はどう対処していくんだろうか。

結局のところ、親は見守るしかないんだよねぇ。

夕飯が食べられなくなるのでいつもおやつはフルーツくらいで済ませるのだけど、今日は奮発してメェの大好きなジンジャーブレッドマンを出した。この人型の生姜入りビスケットがメェもムゥも大好物。弟と一緒に歓声をあげジンジャーブレッドマンにかぶりつくメェの笑顔に少しほっとする。そうなの、自分は過保護ママなのでした。

2008年6月23日
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