満月の夜にヘミシンク

文字数 1,459文字

そうして迎えた満月の夜―

ミステリアスな神秘体験を期待して、胸を躍らせベッドに向かった。ベッドサイドにはオーディオセット(つーか、CDプレーヤー)を用意した。中にはモンロー研究所から取り寄せた「The Gateway Experience」のCDがセットされ、ヘッドフォンに繋がれている。初めてのヘミシンク体験を胸に、いざ寝室へ。

けれどクイーンズサイズとシングルを二つ並べたベッドの上では、インディアンのごとく奇声を上げて跳ね回る2歳児ムゥと、「まだ眠くないよ~、ケロロ見たい~」を連発する6歳児メエ。そうなのだ、自分がα波に入る前にまずこの子たちを安らかな眠りへ誘わなければならないのだった。

私たち家族は、ベイビーのうちから子どもと夫婦の寝室は別にするのが当然というオーストラリア大陸にあって、子どもどころか犬まで同室。家族4人と愛犬2匹で狭苦しくも窮屈に眠っているのだ。

とはいえ、このところの怪しげネタで自分でもすっかり忘れていたけれど、これは「スピリチュアル子育てブログ」なのだった。ヘミシンク体験を子どもらに牛耳られることに何の不足があろうか?

ムゥがCDプレーヤーに気がついて、ヘッドフォンを振り回し始めた。そのうちスイッチボタンを発見し、ラジオを入れたり切ったり、チューナーをめちゃくちゃに回したりして、ますます興奮してくる。

そんな子どもたちを宥めすかして、ようやっと眠らせること1時間10分。もはや自分の瞼の方がひっつきそうだ。

それでもなんとか眠気を払い落とし、自分のいつもの睡眠ポジション、ムゥとメェの間からCDラジカセの置かれたベッド脇に移動した。お願いだから起きないでね、起きるなよ~と、すぅすぅ眠るあどけない寝顔にひとしきり念を送ってからベッドに横になり、ヘッドフォンをつけた。さあ、いよいよ!

メタリックなサウンドがちょこっと流れて、男性の声で右の耳にガイダンスが入った。もしもこの声が左から聞こえてくるようだったら、ヘッドフォンの左右を変えるようにと指示される。ヘミシンクでは左右の脳に別々の刺激を与え、脳の半球を同調させるために、これは極めて重要なポイントだった。

波の音だというサウンドを聞きながら(でも私にはザーッというただの機械音か機内音に聞こえる)、ガイダンスに促されリラクゼーションに入ってゆく。男性の声に時折シンセな音が重なり、流れ、無音が続き―

繰り返しそんな音を聞いているうちに、いつしか私は寝入っていた。ふいにハッと気づいて、意識を取り戻し。取り戻したものの、やはり眠くて堪らない。その繰り返しだった。

最後に「Wake-Up」コールを聞いて、ハッと目が覚めた。

え、もう終わっちゃったの!? 

正直な感想だった。とにかく眠くて堪らなかった。

満月の神秘もどこへやら、今夜のところはとっとと眠ってしまおうと、重なり合いほとんど相手を圧死させそうな子どもたちを引き剥がして、二人の間に割って入った。そうして眠ろうとしたけれど、どうしてなの? 頭が冴えてしまって、ち~とも眠れないじゃあないのっ!!!

そうなのだ、これは「フォーカス10」へと誘うCDだった。モンロー研究所の言う「フォーカス10」とは「頭は覚醒しているのに身体は眠っている状態」だ。あ、それって瞑想下の意識状態にかなり近いな。とにかく「覚醒」してしまったら、眠れないのはあたりまえであって…

結局その夜、私は真夜中過ぎても寝返りを繰り返していた。そうして、今度は別の時間帯にトライしようとボケた頭で誓っていた。

 2008/10/15
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