2歳児連れショッピング  

文字数 2,225文字

幼児連れの買い物は、気も遣うが体力も使う。隙あらば走り回ろうとする2歳児を固定するバギーやカートなんかがなければ、尚更に。たとえあっても、周りに迷惑をかけないように子どもがグズったとき用のスナック菓子は欠かせないんだ。

もうすぐ日本へ一時帰国するので、今日はお土産なんかの買い物も済ませてしまいたかった。となると、いつも行くスーパーの他に6、7軒も回らなきゃならない。いつもより多めにお菓子を用意して、緊急用の賄賂チョコレイトまでバッグに詰め込んで、3時半の娘のお迎えに間に合うように仕事を早めに切り上げて、息子を起こした。

お昼寝の途中で起こされたムゥは、いつも以上に不機嫌だった。それでも、ダライラマ法王の講演でシドニーに行ったときメルボルンで買うよりずっと安かったので纏め買いしてきた「星食べよ」を見せたら、誤魔化されて起き出した。

まずは写真屋へ。日本の両親にあげる写真を現像しようと、お店のパソコンにSDカードを入れた途端にムゥがモニター画面にべたべた触ってくる。でたらめに触ろうとする小さな手を振り払いながら写真を選ぶのもいい加減疲れてきたうえに、オーダーが狂いそうになって、コアラのマーチを与えてしまった。

次は本屋。何か英語の絵本を買ってきてほしいと妹から頼まれていた。どうせなら姪っ子たちが喜びそうな可愛らしい絵本を選びたいと何冊か手に取っていたら、息子が退屈してグズり出す。だけどここは本屋。本を汚してしまいそうな食べ物をうかつに与えるわけにもいかない。チョコなんてもってのほか。家から絵本を持ってくるのを忘れたことを後悔したけれど、後の祭りだった。結局、薄くて手ごろな値段の、だけど買う予定のまったくなかった「Bob the Builder」の絵本を買い与えてしまった。ちっ。

ちなみにここの店主は佛友(仏教友達)で、ご夫婦ともフランス人だ。フランス人が英語の本屋を開くなんて!? と、以前その動機を聞いてみたことがあった。フランスでも本屋をしていたからだってことだった。フランス語の本も以前は置いていたそうだけど、まったく売れなかったので止めてしまったそうな。そりゃフランス移民もほとんどいないこの辺じゃあ売れないかも…とそっちも納得した。

そんなことをしている場合じゃあないとわかっているのにカフェに寄り、カフェラッテで一息ついてから、印刷物のデザイン・ショップへ。娘が転校してゆく親友に贈りたいと昨日書き上げた、自作の絵本をカラーコピーしてもらった。その後デリーに寄ってから、母へのお土産を買うために今度はブティックへ。

今やムゥは調子っぱずれな大声で歌い(たぶん傍目には喚いているとしか思えないハズだ)、踊っている(たぶん暴れているとしか見えないだろう)。もはや私は押さえつけることにも疲れ、ショッピング袋で両手も重くなる一方なので、そのうちほぼ野放し状態となる。せめても車に轢かれないようにと気を遣うってレベルね。

薬局に入るや、いつの間にやら視界から消えてしまったムゥを探し当て、その腕と目当ての品々をガシッと掴んでレジへと急いだ。

と、嘘でしょう、薬のパッケージが、破れているではないかっ!

だけど店員のおばさんは涼しい顔で「あ、この間、小さな女の子が破っちゃったのよぅ。ま、でも大丈夫よ。中身は破損していないからねっ」

中身はって言われても…内服薬である。やはり気になるから替えてもいいかと尋ねれば、替えたかったら替えればぁ的に、しらぁっと肩を竦めている。

待たせちゃ悪いと急いで重たい荷物はレジに置いたまま、ムゥの手だけを掴んで売り場に戻れば、嘘っ!? 替えようにも、それしかないじゃないのぉぉぉ!

「あ、やっぱりなかったのね。ないと思った。それが最後のやつ。でも大丈夫ですよぉ。小さな子が破っちゃっただけだから、わかるでしょ」と相変わらずおばさんは素知らぬ顔で、箱がボロボロに破れた内服薬(しかも中は瓶ではなく粉薬の包みである)を袋に入れてしまった。

その手つきと口調は、もしやすべてを了解済みで不良品をさばくため、わざとそれだけを棚に並べていたんじゃあ…と訝りたくなるほどで。あからさまな「子連れが何言ってんの」然とした態度に、「自分の息子を思えば、こっちもとやかく言えた義理じゃあないかも…」と卑屈な思いに捉われ始める。ひゅる~ 冷たい北風(あ、ここは南極からの冷たぁ~い南風ですがね)が吹き抜ける。

果たして小さな子連れは、こういう状況も涙をのまねばならないんだろうか?

だけど、内服液。それに、ムカつく! かといって、商店街の別の薬局まで買いに行くのは…。私一人の足なら2、3分で済むが、ムゥを連れてだと間違いなく往復15分はかかってしまうだろう。

結局、それでも私は別の薬局へ向かった。子連れだからといって、破損した内服薬を家族に与えるわけにはいかない。

それから現像に出した写真を取りに写真屋に戻って、ようやっとスーパーに到着したときには既にタイムリミット十分前! もはや退屈からではなく疲労からグズリ始めたムゥをスーパーのカートの椅子に固定して、トライアスロン走者の勢いで商品を掴み取りしては最小限のリスト分だけを揃えてレジを突破した。娘のお迎えには、ギリで間に合った。

ちなみにこの2時間で消費したスナック菓子は星食べよ2袋と、ミニ・コアラの…、止めておこう。それでもチョコを死守できたのが、せめてもの救いだ。

2008月6年24日

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