ハロウィーンの夜とスィーツの朝

文字数 2,713文字

10月31日―恒例のハロウィーンパーティーが、オージーのママ友クリちゃん宅で開かれた。この日は子どもたちはもちろん、大人もみ~んな仮装することになっている。私たちも俄か魔法使いファミリーになった。

クリちゃん宅の前庭はすっかりハロウィーンに衣替えしていた。カボチャ頭のジャック・オー・ランタンが木々に吊るされて、玄関先には綿のクモの巣がいたるところに張られ、ゴム蜘蛛がうようよ這っている。

ちなみにこの俄かクモの巣、犬の毛並みにやたらと服にくっ付くため、傍らを通るたび私たちの黒マントにもクモの巣がひっついて、魔女のおどろおどろしさに拍車をかけてくれる。去年はうっかりおニューの黒いジャケットを着て行ってしまったら、後でこの綿毛を取るのが大変だったっけ。

家の中でもクモの巣はいたるところに待ち構えている。のそりと揺れる死神(たぶん)や魔法使いの鍋の周りで魔女やフランケンシュタインやゾンビが蠢いて、小さなお化けや魔法使いや海賊たちが歓声を上げて走り回っていた。

皆が揃うと、黒い女主人クリちゃんの舵取りで、さっそく子どもたちはハロウィーンバッグ作りにかかった。紙袋にパンプキンヘッドをペイントしたり、お化けやフランケンシュタイン、魔女なんかのシールをペタペタ張っては大はしゃぎだ。

バッグ作りが終わったら、今度はジャック・オー・ランタンのキャンドル立ての製作だ。カボチャをくり貫くのはさすがに大変なのでメロンを使って。ダディやマミィの手を借りて、メロンに目や鼻、大きな口を掘っていた。

ハロウィーン工作も一通り終わったら、ジュースやワイン(あ、こっちは大人たちデス)で一息ついて、いよいよお待ち兼ねのハロウィーンマーチである。さっき作ったハロウィーンバッグを手に通りへ繰り出した。

一方ダディたちはビール片手にハロウィーンバスケットのお守りを。「Trick or Treat」とやって来る近所の子どもたちにキャンディやチョコレートなどロリィを手渡すのだ。去年はお天気が良かったので前庭のポーチで飲んでいたらしいけど、今年はじっとり寒々としているせいか、暖かい居間のカウチから誰一人腰を上げようとはしなかった(笑)。

けれど子どもたちの方は、今にも雨が降り出しそうな薄暗い空もなんのその、歓声を上げ練り歩いては家々のドアを叩いていた。「♪Smell my feet、さあ私の足の臭いをお嗅ぎ」で始まる奇妙なハロウィン歌を合唱しては、「trick or treatお菓子くんなかったらイタズラするぞ~」と迫る。

そんな子どもたちの意気込みも空しく、今年は金曜に当たってしまったせいか殆どの家が外出中で、なかなか手ごたえが得られない。そのたびブー垂れながらも、それでもハロウィーンマーチは続いた。魔法使いの帽子を被ったムゥも、マントを翻すメェに手を引かれて、ちょこちょこ一群の後についてゆく様が愛らしい。私もホームムービーを構えてマントを翻し、後を追う。道中、魔法使いやドラキュラの一群と擦れ違うと「Happy Halloween!」と挨拶を交わしつつ。

それにしてもアメリカには遠く、ハロウィーンのそれほど定着していないオーストラリア。今日が何の日かさえ知らない方もいるだろうに、子どもと大人総勢30人近い変装した一群がどやどやと玄関先に現れて、「足の匂いを嗅げ」などと庭先で歌い出すのだから、在宅の方々にはさぞかしウザイに違いない。と思うのだけど、ニコニコと顔を出してお菓子を手渡してくださる方も多いのだから感心してしまう。オージーって寛容なのねぇ。

ハロウィーンバッグが一握りのスィーツで重たくなったころ本格的に雨が降り出したので、そろそろ引き上げることになった。

喉を潤し、スナックをつまみ、一息ついているうちに外はすっかり暗くなっていた。全員が前庭に出て、行進前に作ったジャック・オー・ランタンにキャンドルを灯した。一列に並べるとパンプキン(メロン)ヘッドからチラチラとオレンジ色の灯りが漏れて、とっても綺麗。それを前に皆で記念撮影をした。

それからやっとディナーを。いつもはBBQなのだけど、今年は趣向を変えてイタリアンってことになっていたので、持ち寄ったパスタ料理やサラダ、オードブルなんかをつまんだ。

それから裏庭へ。子どもたちにはまだまだゲームが待ち受けているんだ。

木に吊るされたピニャータはハロウィーンらしく魔女だった。ピニャータとは中にお菓子の入った紙製のくず玉人形で、それを子どもたちは棒で叩いて壊して、中のお菓子頂くという遊びである。

子どもたちは1列に並んで、キャーキャー大騒ぎしながら順番に魔女のピニャータを棒で叩いてゆく。みんなに順番が回るよう「大きな子は1回だけね! 小さな子は2回ね ~!」とクリちゃんが声を張り上げている。

意外に頑丈なピニャータがようやっと破れると、中から目玉チョコやヘビのグミなんてハロウィーン色満載のロリィが零れ落ちた。みんな我先にと歓声を上げ拾い集めていたけれど、そんな中でムゥは疲れたのか勝手がわからないのか、ぼーっと突っ立ていた。そんな弟の分もメェが代わりに拾ってあげていた。

ピニャータの後はドーナツ食い競争だった。ロープに張られたドーナッツを両手を使わず食べようと、メェもムゥもピョンピョン飛び跳ねていた。水の張られた樽に入った林檎食い競争や、花火まで、もう盛沢山だ。毎年のことながらクリちゃんファミリーのご尽力には頭が下がった。

だけどダディンたちのリンゴ食い競争のとき、遂にムゥの力は尽きてしまった。それまでおとなしかったムゥがギャーギャー騒ぎ出し、時計を見れば、早10時。2歳児の限界を超えている。「まだ帰りたくない~」とメェはグズっていたけれど、私たちは一足お先にお暇することにした。

ここに集まる友人たちは、メェが赤ちゃんのころからの付き合いなので、子どもたちも殆どが6歳児か7歳児。今夜のように楽しいイベントともなればまだまだいけるお年頃なのだけど、残念ながら2歳児が一緒では、とても最後までは付き合えない…。

通りから聞こえてくる歓声に「いいなぁ、楽しそう…」とメェは唇を尖らせていたけれど、車が走り出すやもうあくびを繰り返し、瞼も閉じかけている。6歳児の夜もまた早いのであった。

翌朝、子どもたちは昨日の興奮冷めやらず、はしゃぎながら昨夜の戦利品、パンプキンバスケットに入ったスィーツを取り出しては頬張っていた。

一方バスケットや魔女の帽子、マントや手袋、魔法の杖なんてハロウィーングッズはまたクロゼットにしまわれた。来年また、10月31日のハロウィーンの夜まで―。

 2008/10/31
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み