キャンドルの灯に、家族の絆

文字数 1,314文字

義父の5周忌で、ダディンの実家に集まった。

義母は4人の子どもたちとその家族に囲まれ夫を偲ぶこの日を、1年で1番くらい大切にしている。未だにベッドの片側で寝ているのだと言っていたっけ。寝室のクロゼットの上には夫の写真、蝋燭と彼の好きだったという薔薇の花が供えられている。

毎年命日にはベッドの周りに輪になって手をつなぐ(ようにと言われる)。義母が義父を偲んで音楽をかけ、ダディンを始め子どもたちはそれぞれの思いを伝える(ようにと促される)。最後に義父の好きだった歌を皆で歌うころには義母の瞳は潤んでいるんだ。

つられてこちらの瞳も潤んでくるころ、たいていセレモニーに飽きた幼い孫たちが騒ぎ出してしまうんだけど…。すると甲高く元気な声に沈んでいた場の空気がホッと緩み、いつのまにか義母にも明るい声が戻っている。それにしても子どもの声音って、癒しの温かさに溢れている。

義父が逝ったとき、私は息子を妊娠したばかりだったので、息子はグランダァの顔を見たことがない。当時は胎児だった彼も、今年は大好きなチョコレイト菓子ティムタムをあげるのだと自分から小さなお皿にのせてきてくれた!  時間が経つのって、なんて早いんだろう。

それから私たちは裏庭に出て、義母が「ボブのキャンドル」と呼んでいる蝋燭に火を灯した。皆で黙祷し、しばらく炎を眺めていた。冬の夜は早いから辺りは薄暗くなっている。義父が亡くなってから毎年この日に行われる、家族の儀式である。

ダディンの両親も、生前は仲のいい夫婦には見えなかったけど、心臓発作で義父が突然逝ってしまってから義母は痛々しいほどに変わった。

夫婦の絆というものを自然考えさせられてしまう。言い争いをしていても喧嘩をしていてもやはりパートナーは大切な存在なのだと痛感させられる。


今年もすこし不思議なことがあった。洪水の後、夫の実家に居候させてもらっていたときのこと。私のノートPCを義母のブロードバンドに接続してインターネットにつないだところ、なんだかおかしい。上部のサーバーのアドレス以外、真っ白な画面に「BOB INTRODUCTION―ボブの紹介」とだけ大きく文字が現れ、点滅しているのだ。点滅しているのに画面はフリーズ…。

こんなことは初めてだったので驚いた。しかも「BOB、ボブ」というのは義父のニックネームである。まるで義父が、ここにいるよ、と自分の存在を伝えてきているような気がしたのだった。

後でその話をダディンにしたら、
「明日は、ボブの誕生日なんだ。だから出てきてくれたのかもしれないなぁ」と、普段なら私のスピ話にはほぼスルーの夫がしみじみと言ったのだった。

やっぱり、ひとは愛する大切な人が逝ってしまった場合、ちょっとオカルト的不思議な現象とかにも恐怖など感じず、案外すんなりと受け入れてしまうんだろうなぁ。それどころか愛しさや懐かしさに圧倒されてしまうのかもしれない。

実際あれはほんとうに義父からのコンタクトだったのかもしれないなぁと思っている。誕生日には霊もこの世とのパイプが強くなると聞くし。電機系、電化製品は霊の影響を受けやすいともいうし。少なくとも夫はそう思っているようだ。


2010/8/7
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