スプーン一杯の思いやり

文字数 1,832文字

『メアリー・ポピンズ』のミュージカルを観てきた。平日の方が割安なので、子どもたちは学校をお休みして…。メェやムゥにしてみれば「学校を休んでいける!」豪華おまけ付きミュージカルなわけで、もう大喜びだった。

会場のリージェンシーは19世紀に建てられたビクトリア朝の美しい劇場である。メルボルンでもアンティークに優雅な劇場といえばこことプリンセス・シアターかナ。しかも今回は席がドレスサークルだったの! 小さな劇場の2階席の1番前だからステージもよ~く見える。4歳のムゥもチャイルドシートを借りることができて、万全。劇場で見るミュージカルなんて今回が初めてのムゥ。楽しんでくれる(そうしておとなしく見てくれる)ことを願って。

それにしても『メアリー・ポピンズ』というだけあって、とにかく子どもが多かったゾ。いやぁ人のことは言えないけれど、世間にはこ~んなに子どもに学校を休ませて連れてきちゃう親がたくさんいるんですねぇ。思えば私の小学校時代なんて、学校を休んで遊びに行くなんて考えられなかったもんだけど。時代は(あ、ここはオーストラリアだけど)変わりましたねぇ。

私は『メアリー・ポピンズ』をもう何十年も前に1度映画で見たきりで忘れていたけれど(ちなみにミュージカルは映画のストーリーとは変わっていた)、やはり世代も時代も超えて大人も子供も楽しめる素晴らしい作品だと思う。

仕事で忙しく、家庭を顧みる余裕のなかった銀行家のお父さん。慈善事業や社交で忙しく、やはり家庭を顧みる余裕のなかったお母さん。ナニ―(教育係)に預けられ、我儘放題で生意気だった子どもたち。そんなバラバラだった家庭に、メアリー・ポピンズは奇跡を起こしてくれるんだ。家族の心に温かさ優しさを取り戻し、家庭を愛で満たしてくれる―。

音楽はもちろん舞台はカラフルに活き活きと、メェもムゥもお目目をキラキラさせて見入っていた。ムゥなど話はよくわからなかっただろうに、観客と一緒になって小さな手の平を合わせてパチパチ拍手していた。そんな息子の姿に母は舞台より見入ってしまった。^^

『メアリー・ポピンズ』には、思わず口ずさみたくなるようなコミカルに楽しいばかりじゃなく心に迫るスピリチュアルな曲もたくさんありますね。たとえばあの有名な
♪スプーン一杯のお砂糖で(苦い)お薬も楽しく飲めるようになる

そういえばこのところ日常の慌ただしさに、毎日を楽しむための小さなエッセンスを入れることを忘れていたかもしれないなぁ、なんて思わされたりして。バタバタと日常に追われて暮らしていると、つい心配事や不安なんてネガティヴな想念の方が強くなってしまうけど、ちょっとした心の工夫で毎日はキラキラしてくる。ハズですよね。きっと。

♪あなたが招けば、人生には何でも(奇跡が)起こる
などなど、ほとんどニューエイジ的に楽しい曲もたくさんあった。改めて実はすごくスピリチュアルだったんだな~と感心させられました。『ピーターパン』とか『ナルニア物語』とかもそうだけど子どもの物語って、霊的にハッと心を打つものがたくさんあります。

ラストでメアリー・ポピンズは左手にトランク、右手に傘を広げて、夜空に飛び立ってゆく。そんな彼女を見送りながらマイケルが言うの。
「ぼくたちはもうハッピーになれたから、メアリー・ポピンズは彼女を必要としている家庭のところへ飛んで行ったんだよ」と。

その彼女が舞台から星の瞬く夜空の中を客席へと飛んできたときには劇場、拍手喝采。ムゥもメェもめいっぱい頭を上げて小さな手を打ち鳴らし、カンドーしているようだった。ダディンなど、すっかり銀行家のお父さんに感情移入してしまったらしく瞳をうるうるさせていた。夫の瞳にきらりと光るものに気づいた私も、うっ。

夫婦は同じ家庭を営むパートナーとして日々奔走していると、お互い「今日やらねばならないリスト」をこなすので精いっぱいで、人生で1番大切な、ささやかなエッセンスを入れるのを忘れてしまう。たぶん私たちに必要なのは「スプーン1杯の思いやり」なんだろうなぁ。ダライラマ法王も「My religion is KINDNESS」だと言っているし。私も、とかく忘れがちな夫への気遣いだけど、せめてスプーン1杯ぶんくらいは忘れないように日々暮らしてゆこうと思います。

「彼女を必要としている家庭のところへ飛んで行った」メアリー・ポピンズ、次はぜひぜひ我が家に来てもらいたいものデス。


   2010/9/15
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