第18話 鬱屈
文字数 1,056文字
ご飯茶碗を手渡しながら、副社長が誠に問いかける。
「何ちゃあじゃない。高校生にもなりゃあ、男は親の顔らぁ見とうないが」
さらりと言って、社長は同意を求めるように息子たちを見た。
「ほうよ。この角ばった顔を見るたんび、俺がモテんがぁ親父に似てしもうたせいちや思うて、むしゃくしゃしよったでにゃあ」
「俺もよぉ、家に
常務と専務に言われて、副社長も少し納得した表情になった。
「確かに、そんなこともあったでねぇ。何日も
内心では申し訳なく思いつつも、誠は彼らの好意に甘えていた。
誰ひとり、不機嫌に黙りこむ者のいない食卓は心地いい。毒にも薬にもならぬ話をしながら、皆で楽しく飯を食う。誠にとって、それはとても贅沢な時間だった。
ふいに、妹の愛子の寂しげな顔が浮かんでくる。
「男は親の顔らぁ見とうない」そう社長は言ったけれど、女だって同じではないだろうか?
お街にある池田オートサイクルから
雨戸の閉まった家々は夜の闇に溶けて、しんと静まり返っている。
耕太郎の家の前まで来ると、ほとんど無意識に、誠は自転車をこぐ足を止めた。
千代子は、きっとまだ起きているだろう。とは言え、さすがにこんな時間に訪ねるわけにはいかない。
幼いころから早熟だった誠に、千代子はずっと目をかけてくれていた。
「耕太郎らぁは、すんぐ汚してしまうけんねぇ」
そう言って、誠にだけ、洋画や洋楽を扱った雑誌を見せてくれた。
「ことばが分からんけん、歌も楽器の一部みたいに聴こえるでにゃあ」
「ボヘミアンラプソディーち、
子どもじみた誠の感想を、千代子は面白そうに聞いていた。
たびたび千代子の部屋を訪れるようになった誠は、いつしか、胸の奥底にしまい込んでいた思いを、少しずつ打ち明けるようになった。話しているうちに気持ちが高ぶって、泣いてしまうこともあったが、千代子は常に平静だった。安っぽい慰めのことばも、おためごかしの助言もなしに、ただ、淡々と話を聞いてもらえることで、誠はどれほど救われたことだろう。