第43話 月見ヶ浜
文字数 910文字
「月見ヶ浜まで行ってきたがや」
その名の通り、月見ヶ浜は風光明媚な月見の名所で、祖父母の家からは十キロほどの距離だ。
「
そばで聞いていた
「足を入れるだけじゃち、いかん! 海に引きずりこまれて死んだモンが、ようけおるがやき!」
「よう分かっちょうで。ばぁちゃんから、耳にタコができるばぁ言われちょうけんにゃあ」
苦笑まじりに祥子へ返事をしてから、誠は樹に向き直った。
「あこはツーリングには最高ぞ! やけんど、日が高うなったらいかん。暑うなるし、人がようけ出てきよるけんにゃあ」
「そりゃえいにゃあ。明日は部活が休みやけん、行ってみるやか?」
「そう言うたち、お前は
「免許を取ったらいかん言われただけや。積んでもらうがは
すると、今度は茂が話に入ってきた。
「バイクに乗るがやったら、
納戸へ向かった茂は、しばらくゴソゴソとなかをかき回したあと、黒いゴムのバンドがついた、お椀型の白いヘルメットを手に戻ってきた。
「…せっかく、じいちゃんが探してくれよったに、すまんけんどにゃあ……半キャップやのうて、フルフェイスの方が安全ながで……」
少し困ったように、誠が説明する。
「道具も昔とは違うがやき、おじぃはよけいなことしなや!」
「ほいたら、敏郎のを借りたらえいで」
まるで子どもをしかりつけるような祥子の口ぶりを、まったく気にする様子もなく、茂は笑顔で言うのだった。
「お
樹とふたりきりになってから、誠はしみじみと言った。
「あんな感じで、何十年も一緒に暮らしようがやろう?」
「俺んくの親父とお袋も似たようなもんぞ。お袋の小言らぁ、生活音の一部みたいなモンやけんにゃあ。話の中身らぁ聞いちゃあせんでぇ」
あきれたような、それでいて、どこか感心しているようでもある顔で、誠は笑った。