第75話 徳弘と大﨑
文字数 1,190文字
「そいつは何よりちや。前にも言うたけんど、女らぁて、ロクな生きモンやないけんにゃあ。お前がひどい目に合わされんですんで、
バカにするどころか、心底安心したように言う樹に、幸弥はなんだか拍子抜けした。
(女親は息子に彼女ができると機嫌が悪うなるゆう話は聞いたことあるけんど、男親でも同じながやろうか……)
そんなことをぼんやり考えながら、幸弥は本題に入る。
「徳弘がな、お前に会わせろ言うてきかんがや。すまんけんど、いっぺん会うてやってくれんか?」
一拍の間を置いてから、樹は「
何となく、戸惑うような気配を感じた。
(徳弘の性格は樹も察しがついちゅうろうき、そりゃ、乗り気はせんわなぁ……)
少し申し訳ない気持ちになったとき、ふいに、ある考えが浮かんだ。
「ただ会うだけやと間がもたんき、テニスやるかや? 大﨑先輩を誘うてみるき、お前は徳弘とペアになったらえいで」
樹はさらにうろたえた様子で、返事に困っている。
「心配すな。試合とかやのうて、ただの遊びちや。徳弘のヤツ、性格はアレやけんど、前衛としてはなかなかの腕前ぞ」
久しぶりに大﨑とペアを組めるかもしれない。すっかり嬉しくなった幸弥は、ためらう樹を説き伏せて、強引に話を決めてしまった。
夏休みも残すところ数日となった、火曜日の午後。幸弥、樹、徳弘、大﨑の四人は幸弥の地元の青少年センターに集結した。
「なんや、俺まで仲間に入れてもろうて、申し訳ないねや……」
ひどく恐縮した様子の大﨑に、幸弥は徳弘を指さして言った。
「とんでもない! 大﨑先輩が来てくれて、ほんまによかったです。あいつの面倒をみるがは、俺ひとりじゃ無理ですき」
自分が話題にのぼっているとも知らずに、徳弘は興奮した犬のように樹にまとわりついている。
「たまぁるか! この腕、こじゃんち太いでぇ。背中にもえらい筋肉がついちゅう。何を食うたらこんな身体になれるがや?」
馴れ馴れしく樹の身体を撫でまわす徳弘に、大﨑は慌てて声をかけた。
「やめぇや。失礼やいか」
まずは徳弘を引き離すと、大﨑は樹に向き直り、丁重に頭を下げた。
「水田とペアを組んじょった大﨑です。その節は、せっかくの試合を台無しにしてしもうて、えらいすいませんでした」
いったい何のことやらという顔で、樹は幸弥を見やる。
「中学んときの大会のこと言いゆうがですか? そんな昔のこと、こいつはとっくに忘れちょりますき」
樹をあごで指しながら、幸弥は大﨑に言った。
「こいつじゃち、俺や徳弘と同じ一年ながですき、敬語らぁ使わんでください」
「そんなわけにはいかんろう? お前と徳弘は後輩やけんど、
生真面目な性質の大﨑は、いたって真剣な顔で言うのだった。