第69話 勝負ごと
文字数 1,226文字
「ベテランいうたら聞こえはえいけんど、つまりは年寄り集団ちうことやろう?」
無邪気な顔で耕太郎が言うものだから、
ジャンケンの結果、先攻となった元
先頭打者の耕太郎は持ち前の俊敏さで内野ゴロを一塁打に変えた。つづく誠はセーフティーバント、三番打者の文太は一二塁間を抜けるヒットで、開始早々に先取点をもぎ取り、ノーアウト一三塁となった。
捕手を務めていた
「左投げは分が悪いでぇ」
堅悟が声高に嘆くのを見て、秀幸と潮は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「何ちゃじゃない。まずはよう見ていこうちや!」
仲間たちに向けて、樹は威勢よく言った。
荷緒リバーズにとっては練習の合間の息抜きかもしれないけれど、「試合」と呼ぶからには真剣勝負だ。親兄弟であっても妥協する気はさらさらなかった。
樹はファールで粘ったものの、最後はストライクコースからアウトへ抜けるボールに手を出して三振。つづく堅悟はキャッチャーフライ。直人はピッチャーゴロで、あえなく残塁に終わった。
「切り替えていくでぇ!」
皆に声をかけてから、リラックスさせるように佑介の肩を叩く。
場所も人もなじみがあるせいか、佑介は思ったほど緊張していないようだ。
「まずは打たせていこう。あいつらぁを退屈させたらいかんでにゃあ」
佑介の球は素直で打ちやすい。その分、こちらの狙い通りのところへ飛んでくれる。
一回の裏を三者凡退に抑え、ふたたびの攻撃となった。
「とにかく、ようボールを見るがちや!」
バッターボックスに向かう修平だけでなく、仲間たち全員に樹は声をかける。
修平はストライクに入る球をファールでやり過ごし、少しでも投球数を稼ぐ。
「たまぁるか! たかが練習試合にそこまでするかよ」
「ワレらぁ、本気で勝ちにきよるがか?」
荷緒リバーズのメンバーがあきれ果てたように笑う。
「当たり前ちや! ほんまの男ちうモンはにゃ、たとえ遊びじゃち、ひとたび勝負となれば全力投球ながぞ」
鼻息も荒く堅悟が応じると、爺さん連中は腹を抱えて笑った。
樹たちも笑った。堅悟さえも笑っていた。
「俺らぁじゃち、負けやせんでぇ」
いつの間にか投球の手を止めてこちらを眺めていた秀幸と潮も不敵に笑う。
いったい何がそんなにおかしいのか、自分たちにもよく分からないけれど、なんだか無性に楽しかったのだ。
しばし試合を中断して、敵も味方も一緒になって笑い転げた。