第49話 同類
文字数 1,068文字
交通の便がいいので、母校である南野中から東条高へ進学する生徒は多いけれど、
校舎脇の細い路地を入ってしばらく行くと、フェンスに囲まれたテニスコートが見えた。すでに試合は始まっているらしい。なるべく目立たないように、そっと様子をのぞいてみる。身振り手振りが派手な徳弘は、遠目にもすぐに分かった。さて、大﨑先輩はどこだろう? そう思った矢先、幸弥に気づいた徳弘が大きな声をあげた。遠すぎてよく聞き取れないけれど、幸弥を指さしながら、しきりに何か言っている。
(騒ぐな、バカ。試合中ぞ! ほんで、ひとを指さすなち、何べん言うたら分かるがや……)
幸弥は口のなかで毒づく。
どこからか走り寄ってきた大﨑が、必死に徳弘を制し、周囲へ頭を下げている。なんだか申し訳なくて、大﨑と試合中の生徒たちへ向けて、幸弥も深々と頭を下げた。顔を上げると、大﨑が周囲を気にしつつも、幸弥に小さく手をふっている。
大﨑も徳弘も、中学のころから少しも変わっていない。
幸弥はひどく安心した気持ちになった。面倒をかけてしまったけれど、それでも、来てよかったと思えた。
夕べ、無性に声が聞きたくなって、卒業以来、ほとんど会っていなかった徳弘に、久しぶりで電話をかけた。
「ぼっちりのタイミングぞ。明日、練習試合があるがで。大﨑先輩だけやのうて、俺も出れるき、応援しに来いや」
電話に出た徳弘は、まるで毎日顔を合わせているかのような口ぶりで言った。
「明日もバイトがあるき、行けるとしたち、午前中だけぞ」
不愛想な返事とは裏腹に、心が弾んだ。
中学時代、軟式庭球部で、幸弥は一年先輩の大﨑とダブルスのペアを組んでいた。不器用だが温和で情の深い大﨑は、部内で浮いていた幸弥を、陰になり日向になり支えてくれた。
大﨑が部活を引退した後、ペアとなった徳弘は、大﨑とはまったく違うタイプだった。何ごとにも頓着せず、誰にでも言いたいことを言い、思うままに行動する。当然、周囲からは煙たがられた。幸弥とペアを組んだのは、ほかの誰からも相手にされなかったからだ。
初めのうち、幸弥はそんな徳弘と同類に見られることが嫌でたまらなかった。
だがあるとき、ふいに気づいた。
幸弥もまた、「ごく普通の、当たり前の人間」ではない。
そちら側の人間になりたいと、ずっと願っていたけれど、なれなかった。
そんな幸弥が、徳弘までも切り捨ててしまったら、自分が居ていい場所など、どこにもなくなってしまうのだ。