第12話 おきゃく
文字数 1,047文字
帰宅した
茶の間と客間のあいだのふすまを取り外し、大ぶりの座卓を中央にしつらえた部屋には、祖父と両親、兄の
「お
非難がましいことを言うが、そこにいる全員がすでに一杯調子だった。
高知には「おきゃく」と呼ばれる、折々に親戚や仲間うちで集まっては酒を酌み交わす文化がある。女性陣がいちいち台所に立たなくても済むように、大皿にごちそうを山盛りにした「皿鉢料理」を肴にして、皆がそろって宴卓を囲むのだ。
「ごめんで。現像に出しちょった写真ができたけん、渡しに行っちょったがや」
「コレか?」
「そんながぁ、明日、学校で渡せばえいろう?」
母の
「無理ちや。そいつ、大手門やけん」
県内随一の名門校の名に、一同はたちまち騒然となる。
「大手門⁉ あんたぁ、大手門に通いゆ子と友達ながか?」
「いったい、どこでそんな秀才と知り合うたぞね?」
「中学のとき、部活の試合で会うたがや」
「そいつぁたまぁるか! 未来のエリートやいか」
「将来、食うに困ったら厄介になれるがやき、大事にせんといかんでぇ」
「それより、爪の垢をもろうて、煎じて飲んだらどうな? 成績アップ間違いなしぞ」
好き勝手なことを言って盛り上がる男どもを、
「なにを馬鹿なこと言いゆうぞね! ウチの樹ばぁ
「ほいたら、逆に、樹の爪の垢を飲ましちゃらぁよ」
「そいつぁいかん! 『いきなりアホになりよった』言うて、親が乗りこんでくるき」
皆じゅうが笑い転げ、樹も笑った。
おきゃくは日がとっぷりと暮れるまでつづき、すっかり酔いつぶれた敏郎は、伯父の
今夜は祖父母宅に泊まる、保と昭子は客間に、潮は樹の部屋に床を取った。兄と枕を並べて寝るのはずいぶん久しぶりだ。
長い一日だった。