第4話 ぬくもり
文字数 1,008文字
「道は覚えちゅうろう?」
背中ごしに幸弥が尋ねた。
「ああ。道なりに行ったらえいがやろう?」
駅を背にしてまっすぐ伸びる大通りを、ひたすらに走る。賑やかな街並みを過ぎると、やがて視界の両側に広々とした田園があらわれた。見覚えのある懐かしい景色が、樹のうちに眠る記憶を呼び起こす。
あの日の樹も、ゆるやかな下り坂がつづく一本道を、自転車に幸弥を乗せて走っていた。
全身を撫でる風が心地よく、汗で濡れたシャツはいつの間にか乾いていた。
ふと、背中にぬくもりを感じた。
幸弥が頬を押しつけたのだ。
初めは、何かのはずみでぶつかったのかと思った。けれど、いつまでたっても、幸弥は樹の背に頬を寄せたままだった。
あれは、いったい何だったのだろう……
ほんの一瞬、
そんなことがあったことさえ、幸弥は、とっくに忘れているかもしれない。
青少年センターに到着すると、幸弥は待ちかねたように荷台から飛び降りた。軽くストレッチをして、何度かボールを打ち合ったあと、さっそく試合を始める。
「何な、お前。ちっともサービス入らんやか?」
幸弥が不満そうに頬を膨らませる。
「部活を引退してから、まともにラケット握らざったでにゃあ」
樹は詫びるようにを片手をあげた。
「そんな状態で、ようも俺に挑んできよったなぁ?」
「勝負しに来たわけやないでぇ。俺はただ、お前とテニスがしたかったがで……」
「年寄りみたいなことぬかすな!」
幸弥がフンと鼻を鳴らす。
「俺ぁ今じゃち、毎日ボール打ちゆうがぞ。
「お前はほんまにテニスが好きながやにゃあ……」
樹はしみじみと幸弥を見やる。
「ほいでも、やっぱり、テニス部には入らんがか?」
「前にも言うたろう? 俺はバイトして、金を貯めんといかんがや!」
幸弥が語気を強める。
「
みぞおちを殴りつけられたような、鈍い痛みが樹を襲う。
「すまん。いらんこと、言うてしもうた……」
「わかったなら、えい。時間が惜しいき、つづきをやるで」
幸弥はひどい癇癪持ちだが、言いたいことを言ってしまえば気の済むタイプだった。その切り替えの早さには、樹はいつも戸惑ってしまう。