第22話 圧迫
文字数 913文字
受話器の向こうから聞こえてくる声は、かすれて、どこか頼りなげだ。
いつ電話しても、誠は家にいたためしがない。電話をくれと
「誠のヤツ、そんな遅うまで、いったい何をしちょうがや?」
つい、
「そいつぁ知らん。けんどにゃあ、あいつが好きなことできるがぁ、学生のうちだけながやけん、大目に見ちゃりや……」
ふだんから物静かな誠の父の声は、電話越しに聞くとなおさらに弱々しい。
「お前の方はどうな? 元気にしちょうがか?」
「俺ぁ元気でぇ。誠こそどうながや。夜遊びし過ぎて、体壊したりしちゃあせんか?」
「朝はちゃんと起きちょるし、ふつうにメシ食うて学校行きよるけん、元気ながやないか?」
そう答えてから、自嘲的に笑う。
「一緒に暮らしちょうくせに、『元気やないか』ち、おかしな言い草やにゃあ……」
誠の父は、樹の父の
それでも、質問にきちんと答えてくれるのはありがたかった。
誠の母は「誠はおらん」と言うなり電話を切ってしまうし、極度の引っ込み思案である妹の愛子も似たようなものだ。祖母は祖母で、樹の言うことにはまったく耳を貸さずに、延々と自分の話したいことだけを話す。
誠の家の女性陣は、なかなかにくせ者ぞろいなのだ。
なかでも、樹は誠の母が苦手だった。
まだ幼いころ、隣家へ遊びに行ったときのことだ。誠の祖母が何かひとこと話しかけたとたん、母はくるりと背を向けて、いきなり
それだけでも異様な光景だったが、やがて、樹はあることに気づいた。
石のように黙りこくっている母の背中から、何か得体の知れない、どす黒いものが滲み出ていた。
あたりの空気がしだいに濃く、重くなっていき、樹たちを押しつぶすかのようだった。
愛子は
樹を引き留めることもせず、ただ、寂しそうに見送っていた誠の顔が、樹のまぶたにちらついた。