第58話 問いかけ
文字数 901文字
(また来よったがか……)
誠は腹のなかで舌打ちをした。ところが、いつまでたっても高橋は店に入ってこない。
「ちぃと見て
社長に言われて表へ出ると、店の外壁に寄りかかるようにして、高橋がポツンと立っている。
「そんな
「…入っても、かまんが?」
しおらしい顔で高橋が尋ねる。
何と答えたものやら、誠は返事に困ってしまった。
そのとき、けたたましいマフラーの排気音がして、ド派手な黄色に塗られたヤマハパッソルがまっすぐこちらへ向かってきた。真っ赤なツナギの作業着をまとい、がに股に開いた足には黒のゴム長を履いた
「たまぁるか! おふたりさん、お熱いでにゃあ」
白いハーフキャップからのびた黒のバンドが、バタバタと風に揺れていた。
「お前、そんなかっこうで……せめてバンドは止めぇや!」
誠は慌てて叫んだが、堅悟は高笑いを残して去っていった。
「
柔らかな餅のような高橋の頬がほのかに赤く染まり、ぷっと膨らむ。
「中学んとき、あいつ、私のこと『ブス』ち呼びよったがで」
「そんながぁ冗談に決まっちょうろう。なんぼ堅悟が無神経やいうたち、ほんまモンのブスに向かっては、『ブス』じゃち、よう言わんでぇ」
「それ、どういう意味な?」
高橋の目が、何かを期待するように、きらりと光る。
しかし、誠は堅悟を弁護しただけで、他意はなかった。
「俺に
素っ気なく言い捨てて、誠は店へ戻ろうとした。
次の瞬間、高橋は誠の肩を両手で抑え、強引に自分の方へ向き直らせた。
「私は、あんたの口から、聞きたいが!」
小動物を思わせるつぶらな瞳が、まるで肉食獣に挑みかかるかのような切羽詰まった真剣さで、真正面から誠を見据える。
高橋の気迫に押されて、誠はわずかに身体を引いた。