第67話 お盆
文字数 605文字
「えいとこに
お盆の入りには、川辺で線香をたき、米を供えて仏さまをお迎えするのがこの辺りの風習だった。
日はまだ完全に暮れてはいなかったけれど、川べりの草を揺らす風はかすかに夜の匂いがした。
ひぐらしの声が、少しずつ暗さを増す空に吸いこまれてゆく。
保は丸めた新聞紙を地面に置くと、そこへ擦ったマッチを放りこみ、燃え上がった炎で線香の束に火をつけた。白っぽい線香の煙が空へ上っていくのを見届けて、樹はそっと手を合わせる。
ふいに、昭子に母乳を分け与えた女性の赤ん坊を想った。
あの子の魂も、こんなふうに家族に迎えられて、家に帰ってこれただろうか……
「家族みんなぁでお迎えできたき、ご先祖さまも喜んでくれちゅうろう」
いつになく穏やかな声でつぶやくと、昭子は持ってきた空き瓶に川の水を汲んだ。
この水は仏壇にお供えするのだ。
「ほいたら、明日からはまた忙しゅうなるでぇ」
保は晴れ晴れとした顔で皆を見やる。
明日は親戚の家をめぐって仏さまを拝む。樹の家にも親戚が来る。お盆はご先祖さまをお迎えすると同時に、普段はほとんど交流のない遠い親戚と行き来する、年に一度の行事なのだった。