第26話 幡多の人
文字数 835文字
「ほう、今のうちから進路のこと考えちゅうがか? そりゃ感心なこっちゃ」
気をよくした担任は様々な助言をくれた。
「経済が学びたいがやったら、地元のK大にも経済学部があるでぇ。国立やき入試は難しいけんど、ウチの高校からも毎年合格者は出ちゅうぞ。私立と比べたら学費は安いき、今から頑張って目指してみたらどうな?」
——ときどき、思うがよ……誠のヤツぁ、もう、半分大人ゆうか、社会人みたいじゃち
佑介のことばが耳に響く。
佑介がそんな風に感じたのは、きっと、働いて金を稼いでいるからというような単純な理由ではない。親の手を離れたとき、自分はいかにして生きていくのか? 仲間うちの誰よりも早く、誠はそれを考え始めていたのだ。
具体的な目標ができたとたん、これまで漫然と受けていた授業や日々の課題に意義を見いだすようになった。苦手だった本も読みだした。新しいことに挑むたびに、知らないことが増えていく。体がひとつでは足りないほどに、日々は充実していた。
そんななか、とまどうこともあった。
「
初めて会うひとには、よくそう言われた。樹にとっても、特に年配の人が話す土佐弁は聞き取りにくく、まるで外国人と会話をしているような気分になる。
「こっちへきてから、『幡多の人』ち、呼ばれるようになったがで」
祥子の手料理がちゃぶ台いっぱいに並ぶ夕食の膳を囲みながら、樹は祖父母に愚痴をこぼした。
「俺は元々
口元にビールの泡をつけた茂が豪快に笑う。
「そういうもんぞ。この先、お前が県外に出たら、今度は『高知の人』ち呼ばれるねや」
「ほいで、
祥子が口を挟む。
「戦争中に、満州へ行っちょったときには、私らぁみんな、日本人ち呼ばれたがよ」