第31話 似たもの同士
文字数 1,113文字
幸弥がバイト先としてこの店を選んだのは利便性だけではない。この店の主人は、幸弥が一緒に暮らす大叔母の、今は亡き夫の古くからの知人だった。若い時分には、大叔父が色々と面倒をみてやったらしい。
「義理堅いひとやき、あんたにも、良うしてくれるはずやきねぇ」
大叔母はそう言って、この店を勧めてくれたのだった。
従業員用の裏口から入ろうとしたとき、中から話し声が聞こえてきた。お昼どきの混雑がひと段落ついたころだから、パートの主婦たちとバイト学生が休憩室で一服しているのだろう。
「あの、新しい子らぁの歓迎会、どうするがですか?」
「やらんでも
ドアを開けようとした手が止まる。
追い打ちをかけるように、別の声が言った。
「はっきり言うて、今年はハズレやなぁ。覇気のないヤツらぁがおると、なんやこっちまで調子狂うでぇ」
「そんなこと言いなや! 店長に聞かれたら
これではとても入っていけない……
少し時間をつぶしてから出直そうとした幸弥は、いつの間には背後に立っていた少女と危うくぶつかりそうになった。
「…入らんが?」
幸弥とともに、休憩室の話題にのぼっている人物だ。
そのことを告げていいものかどうか、迷っているうちに、いきなりドアが開いた。
パートのひとりが幸弥たちを見て、「あら!」と頓狂な声をあげる。
「何な? あんたらぁ、はや来よったが? 交代の時間までだいぶあるに、感心なこっちゃねぇ」
室内の空気が微かにざわめく。
しかし、すぐさま、何ごともなかったかのように、皆が笑顔で声をかけてくる。
「ふたりとも真面目やき」
「ほんまに、最近の若いひとには珍しいでねぇ」
幸弥もあわてて作り笑いを浮かべ、あいさつを返す。
「ほいたら、『夜の部』に向けて、もうひと踏ん張りするかや!」
気まずさをごまかすかのように、大きく伸びをするバイトの大学生に向かって、幸弥は精いっぱいに明るい声で尋ねた。
「松本さん、夜までやるがですか?」
「おうよ。先月はちぃとばぁ呑み過ぎたき、今月は稼がんといかんねや」
高校時代からこの店で働いている松本は、学生バイトのなかでは最年長のベテランだ。大学の講義のあいまを縫って昼のシフトに入ることも多く、パートの従業員とも仲がいい。よく働きよく遊ぶ、実に活力にあふれた青年で、常連客からも