第68話 元野球少年たち
文字数 971文字
「今日は荷緒リバーズの練習があるがやけんど、樹も一緒にどうな?」
「荷緒リバーズ」とは集落の野球好きで結成した社会人チームだ。野球チームらしからぬ名を付けたのは保だった。「ファイターズやら、ジャイアンツらぁてチーム名は、掃いて捨てるばぁあるけんど、これは
「誠らぁも誘って
「かまんで。人数が集まりよったら、試合もできるでにゃあ」
樹はさっそく皆に連絡をとった。嬉しいことに、いつもの
荷緒小のグラウンドに集結した仲間たちの意気込みは、樹に引けを取らぬほどだった。
「チーム『荷緒小』の再結成ちや!」
抜群の機動力と天性の勘をそなえた元名ショートの耕太郎が、ゴムボールのように軽快に跳ね回る。
「スポーツはご無沙汰やったけんにゃ。腕が鳴るでぇ」
体当たりの守備と長打力が武器の、元ファースト五番打者の堅悟は、空を切る鋭い音を響かせてバットを振り回す。
「お前らぁ、よう準備運動しちょきや! ケガしても知らんぞ」
俊足を誇る元サード二番打者の誠は、屈伸や柔軟に余念がない。
「野球のボール握るらぁて、何年ぶりろう……」
不安そうな元ピッチャーの佑介を、元キャッチャーの樹が激励する。
「いっぺん身体に染みついたモンは、そう簡単には無いならん。あれこれ考えんと、無心で投げたらえいで」
そうは言ったものの、樹にしても、本格的な装備を着けてプレイするのは小学生のとき以来だ。感覚を取り戻すべく、ウォームアップを兼ねての投球練習に佑介を誘う。最初はおっかなびっくり投げていた佑介だったが、そのうちにフォームが安定してきた。ためしに、樹はミットの位置を変えてみる。まるで吸いこまれるように、ボールはすっぽりとミットに収まった。細やかで丁寧なピッチングから生まれる制球力の良さこそが、佑介の最大の武器だった。
文太、直人、修平の三人は、つい先日部活を引退したばかりだし、二年生の清は現役の野球部員だ。
戦力としても、もちろん申し分ないのだが、このメンバーが特別なのは、それだけが理由ではなかった。