第85話 どうすれば……
文字数 1,044文字
いつもとは違う、押し殺した声で、高橋がつぶやく。
「あんたぁ知らんろうけんどねぇ、ふみちゃんは……女子のあいだでは、えらい評判悪いがで。おとなしい、
「ひどいこと言うなや!」
誠は思わず声を荒げた。だがすぐに、こちらが感情的になるほど、かえって反発を呼ぶのだと気づいた。
小さく息を吐いて気持ちを落ち着かせると、口調を改めて、
「お前らぁ、中学んときからの友達やないがか?」
「あんな子、友達やない!」
泣きわめく子どものような、甲高い叫びが誠の耳を突き刺す。
「初めて会うたときから、大っ嫌いやったわえ! ふみちゃんらぁて、ふみちゃんらぁて……」
自分のことばに興奮するかのように、高橋の感情がどんどん高ぶってゆく。
「やめぇや!」
誠はとっさに両肩をつかんだ。
高橋はビクンと身体を震わせると、驚いたように誠を見やる。
「それ以上、言うたらいかん……」
高橋の目を見返しながら、誠は首を横に振った。
「
何かを期待して、輝きを取り戻していた高橋の顔が、ふたたび曇る。
「ふみちゃんに悪いことを言うたら、それが、本当になってしまうかもしれんけん……そればぁ必死になって、私を止めたが?」
「ふみちゃんのこと、そんなに、大事ながや……」
「岡林だけやない。お前のためでもあるがで」
一時の激情に
——佑介らぁて、いっそのこと、死んだらえいがや!
怒りにまかせた叫びが、耳によみがえる。
あの日、誠が吐いた呪いのことばは、今も消えることなく、亡霊のごとくに
こんな思いを、高橋にはさせたくなかった。
「ふみちゃんだけやない……あんたもズルいちや!」
まばたきもせずに、じっと誠を見つめていた高橋は、吐き捨てるように言うと、いきなり駆けだした。
その瞬間、何かとても残酷なことをしてしまったような、苦い想いが、胸にこみあげてくる。
「ほんなら……どうすりゃよかったがで……」
どんどん小さくなってゆく高橋の背中を見つめながら、誠は、誰にともなくつぶやいていた。