第86話 平均点
文字数 1,006文字
夏休みに入ると、それまでの遅れを取り戻すべく、猛然と勉強に励んだ。バイトは毎日のように入れていたけれど、ごくたまに徳弘や
準備万端で新学期を迎えたはずの幸弥だったが、いざ中間テストを受けると、ほとんどの科目が平均点そこそこしか取れていなかった。学内順位表が廊下に貼りだされ、最初は上位から順に見ていったのだけれど、いつまでたっても自分の名前が見つからない。焦りを覚えた幸弥は、まさかとは思いつつも、最下位の方から探すことにした。やはり名前は出てこない。見落としたのだろうかと不安になったころ、ようやく「水田幸弥」の文字が目に飛びこんできた。全学年のちょうど真ん中あたりだ。上位、下位のどちらから探しても、すぐには見つからなかったのも無理はない。
とりあえず、下位ではなかったことに安堵した。だがしだいに、この程度の順位で満足している自分に、猛烈に腹が立ってきた。中学時代の幸弥は、十位より下に落ちたことはなかったのだ。
「中間テストらぁてモンに一喜一憂するがは、
幸弥よりも、かなり低い順位だったにもかかわらず、佐々木は気にも留めていない様子で
「そもそも、学業成績ごときでヒトの知性は
例によって、幸弥の返事を待たずに、佐々木はひとりでしゃべりまくっている。
(なぁにが知性な? そんな抽象的なモンが世間で通用するかえ!)
幸弥は腹のなかで毒づいた。
他人に自分を認めさせるには、順位や偏差値といった、数字に表れるもので優位を示すのが最も効果的なのだ。県内トップクラスの大手門高の生徒であることで、幸弥は周囲から一目置かれていた。けれど、「ほぼ平均点」などという中途半端な成績では、校内において無意味な存在になってしまう。プライドの高い幸弥にとって、それは我慢ならないことだった。