第41話 辺境
文字数 1,072文字
「人間、誰しも、得手不得手があるでにゃあ。自分に適した役割を担うがが、本人にも、周りにとっても、
「こいつ、えらい話が分かるやいか?
井上が小ばかにしたように樹を見やる。
釈然としなかったが、誠への評価だけは認めることにした。
「確かに、誠は賢いでぇ。なんせ、
「ほいたら、こっちで言うたら大手門クラスちうことながか?」
森が目を丸くする。
「そこまでやないでぇ。幡多は高知と違うて、競争率が低いけん」
謙遜する誠に、川村はしみじみと言った。
「頭の良し
「そいつぁ、どうも。えらい持ち上げてもろうたけん、お礼に何ぞ奢らにゃいかんかにゃあ?」
誠の冗談に皆が笑い、この話はひとまず終了となった。
その後も散々歩き回って、仲間たちと別れたときには、もう夕刻を過ぎていた。
「考えてみれば当たり前やけんど、高知のモンやいうたち、俺らぁと変わりゃせんにゃ」
少し安心したように、誠が笑う。
「そうかもしれんけんど、井上みたいなヤツは、これまで俺の周りにはおらざったでぇ」
「あいつぁ本気で相手にせんじゃち
「そりゃ、また…えらい
ついさっきまでは、樹も井上に腹を立てていたのだが、あまりの手厳しさに、なんだか気の毒に思えてくる。
太陽はすでに沈んでいたが、日の名残りが山の端を朱く染めていた。
「市内のどこにおったち、山が見えるがやにゃあ……」
誠がぽつりとつぶやく。
「ほんまやにゃ。ほいでも、どことのう、
樹のまぶたに、故郷の風景が浮かぶ。
四方を囲む山々。刻々と色を変えてゆく空。川のせせらぎ。陽光を受けて輝く水面。鳥のさえずり。風に揺れる稲穂。香り米の香ばしい匂い……
それらすべてが混然一体となって、「
「高知も、荷緒も、同じちや……しょせんは、
予想だにしないことばに、樹は思わず誠を見やった。
「この程度で満足しよったらいかんでぇ。もっともっと、広い世界があるがやけん……」
辺りがしだいに暗さを増してゆくなか、彼方を見据える誠の目だけが、異様なまでに輝いていた。