第74話 紹介
文字数 1,003文字
受話器の向こうから、徳弘の憮然とした声が聞こえてくる。
(ヤマダハルコち、誰な?)
そんな疑問が頭に浮かんだ直後、このあいだからずっと思い出せずにいた、徳弘に紹介された女の子の名前であることに、
「ふざけた話ぞ。テニス部の先輩に告白されたき、つき合うことにした言いゆうがや」
特に乗り気というわけでもなかった
「まぁ、そう気を落とすな。そのうちえいこともあるでぇ」
「何ならぁ、その言い草は? だいたい、俺ぁ彼女がほしいらぁて言うちゃあせんき。お前が勝手に紹介してきよったがやないか」
決して強がりではない。少なくとも今のところは、幸弥は恋愛よりも、むしろ友情に飢えていた。父の形見の小説について語り合える相手がほしかった。チェスタトンが好きで、ちゃんと自分の話を聞いてくれる人間ならば、どんな変人でもかまわないとさえ思っていた。
(どうせ、マトモなヤツは俺のことらぁ相手にせんがやき……)
これまでずっと、心の底に封じこめていた、「自分は
そんな幸弥の思いなど知るよしもない徳弘は、打って変わって明るい声で尋ねた。
「ところで、
「ああ、あれなぁ……」
徳弘のしつこさに根負けして、つい「うん」と言ってしまったことを、幸弥は後悔した。幸弥にとって、
仕方がないので、徳弘との電話を切ったあと、すぐに