第23話 公衆電話
文字数 1,121文字
順番待ちをする人がいないのを確かめてから、
「樹か? 久しぶりやにゃあ!」
浮き立つような佑介の声に、沈んだ気持ちが晴れていくようだった。
「どうな? みんなぁ元気かや」
「元気ぞ。けんどよぉ、お前がおらんけん、何か足りんような、おかしな感じがするがでぇ」
そう答えながら、佑介は思い出したように付け加える。
「言うたち、俺らぁはひとり欠けたばぁやけんど、お前は誰っちゃあおらん
いかにも佑介らしい発想で、樹は思わず笑ってしまった。
少しとぼけてはいるけれど、心底優しい男なのだ。
「ほいでも、俺らぁじゃち、前みたくは一緒におれんでよぉ。堅悟は
「誠はバイトが忙しいがやろうか? いつ電話したち、おらんがよ」
「そう言うたら、千代子姉ちゃんも『近ごろ誠の顔を見ちょらんけんど、あの子、ちゃんと生きちょうがか?』ち、
「あいつ、千代子姉ちゃんにも会うちょらんがか?」
樹は急に不安になる。仲間たちには強がっても、千代子の前でだけは、誠は素の自分を出せていたのだ。
樹の気持ちを察したのか、佑介は安心させるように言った。
「何ちゃあ心配いらんで。バイト先の人らぁが、えらい誠を気に入っちょうらしいてにゃ、毎晩めし食わしてくれるがやと」
少しの間を置いて、しんみりした口調でつづける。
「ときどき、思うがよ……誠のヤツぁ、もう、半分大人ゆうか、社会人みたいじゃち。同い年やに、どんどん差ぁつけられちょう気がするでぇ……」
水面に小石を投げこんだように、佑介のことばが、樹のなかで静かに波紋を広げてゆく。
「俺らぁて、部活や授業についてくだけで手一杯でよぉ。バイトする暇ものうて、家の手伝いして小遣いもろうちょう。ほんまに情けのうて、嫌になるがで……」
「俺じゃち同じぞ。部活やっちょったら、なかなかバイトはできんでにゃあ。休みのときだけ、親戚の工場を手伝うちょうがや」
「ほんまか? 樹も、そうながか?」
佑介は嬉しそうに言い、ホッと安堵の息を吐いた。
「なんや、気持ちが軽うなったわえ」
「俺も、お前と話ができてよかったわ。やっぱり、
佑介に別れを告げて、樹は受話器を置いた。
そのとたん、自分と故郷をつなぐ糸がプツンと切れてしまった気がして、なんとも言えない心細さが、胸にこみあげた。