第73話 約束
文字数 1,266文字
両チームが
誰もがとっさに潮のミットを見やった。天を向いたミットのなかには、白球がすっぽりと収まっている。
「バッター、アウッ。ゲームセットォ!」
審判のコールが三方を囲む山々にこだまする。
歓喜の声をあげて、リバーズの選手たちが潮に駆け寄った。しかし潮は立ち上がろうともせず、地べたに這いつくばったまま、小刻みに身体を震わせている。
潮は、泣いていた。
マウンドに立ち尽くしていた
野球が好きで好きで、ただそれだけで入った強豪校には、自分たちよりも上手いヤツらがうじゃうじゃいた。
試合はおろか、練習にさえ満足に参加させてもらえなかった。
そんなふたりが、たかが草野球とはいえ、激闘の末にチームを勝利に導いたのだ。
兄たちの悔しさを知っている
「笑うたり泣いたり、
「ようよう終わったかえ? えらい長い試合やったねぇ」
耕太郎の母が、山盛りのスイカをのせた盆を手にやってきた。
「よう冷えちょうけん、みんなぁで食べたや」
「ワレらぁ、塩はいらんろう?」
仲間たちに冷やかされながら、潮と秀幸が泣き濡れた顔でスイカにかぶりつく。
渇いた身体に、うす
「部活やめたらテキメン身体がなまっちょう」
「まっこと。納得いかんけん、鍛え直してほんまの実力をみせちゃらぁよ」
耕太郎と堅悟の会話を聞いたリバーズメンバーが、上機嫌で口をはさむ。
「望むところちや。いつじゃち、相手になっちゃらぁ」
「そんときは、呼んでください。俺も、このメンバーでまた試合がしたいがです!」
真剣な面持ちで清が言った。
「なんや知らんけど、俺、胸んなかがいっぱいになってしもうて……野球、やめんでよかった……」
清の目にふたたび涙があふれる。
土ぼこりのついた手でぬぐうものだから、まるでうす汚れたパンダのようだ。
清の背中を、樹がそっと叩く。
部内のいざこざに疲れ果てた清が、一時期、本気で部活を辞めようかと思い悩んでいたことを、樹は知っていた。
「正月には、また
「ほいたら、俺も、一から鍛え直しちや。この試合、ひとっちゃあ、思う通りに身体が動からったけんにゃあ」
そばで聞いていた誠が、樹にニッと笑いかける。
なんだか無性に嬉しくなって、樹は片手をあげた。すかさず誠がハイタッチする。汗とほこりとスイカの果汁にまみれた、手のひらと手のひらが触れ合った瞬間、パチンと小気味いい音が辺りに響いた。