第64話 小旅行
文字数 1,131文字
「そろそろ
日はすっかり昇りきって、木々の影が濃くなっている。うっすらと汗をかきつつ、木漏れ日がまだら模様をつくる山道をくだっていく。
「朝飯食うたらツーリングに行かんか? 春休みにみんなぁで行った、宿場まで行ってみようや」
誠の提案を樹は喜んで受けた。
急いで朝食をすまし、押入れからデニムのジャンパーとズボンを引っ張りだして身につける。
「せっかく
昭子の嫌味を背中に聞きながら、樹はふたたび家を出た。
「
「そう言うたら、こないだは悪かったにゃ。免許取りたてで、しかもよう知らん道やに、積んでくれやち言うてしもうて」
「ほんまのこと言うたら、ちっくとビビッちょったがで。ほいでも、『できん』らぁて、言いとうなかったけん、死ぬ気で走ったがよ」
ゆっくりと坂道をくだり、国道へ出ると、目の前に海が広がる。
中学生のころ、何度も訪れたハの字形の堤防が見えた。懐かしさが込みあげるけれど、バイクはしだいに速度を上げ、またたく間に視界から消えてゆく。
やがて、国道は海沿いをそれて街中へ入った。トンネルを抜け、木々の生い茂る山道を上ったり下ったりするうちに、宿場の街が見えてきた。
「なんや、あっちゅう間についてしもうたにゃ。やっぱりバイクは早いわえ」
「そもそも、自転車で行く距離やないが。あのころの俺らぁ、ほんまにアホやったちや」
誠はおかしそうに笑う。
湾の方で海を見たり、商店街を散策したあと、春休みに仲間たちと行った「ライオン館」で昼食をとることにした。
「チーズバーガー、フライドチキン、コーラ、合わせて六百七十万円。サンキューベリーマッチ」
顔色ひとつ変えずに、店長がお得意のジョークを飛ばす。
冗談だと分かっているのに、妙に緊張しながら千円札を差しだす。
「はい、一千万円、お預かり。おつり、三百三十万円」
無事に会計をすませ、樹は安堵の息をついた。
「俺ぁ、どうも、この店のノリにはついていけんちや……」
テーブルについてから、誠にそっと耳打ちする。
「俺は嫌いやないでぇ。マスターが真顔なところが、またシュールで
誠の言う意味が、樹には少しも呑みこめないのだが、ともあれ、味の方は絶品だ。
「堅悟のヤツ、女連れて、よう来ちょうらしいで。しかも毎回、違う女ながやと」
「ほんまか? あいつも案外やるもんやにゃ」
「そんなわけあるかよ。タカられちょうだけぞ。こないだ堅悟に会うたら、『メシ食わしちゃったに、誰っちゃあヤラしてくれん』ち、