第36話 バイク乗り
文字数 966文字
小学生のころまでは、仲間のうちでは
佑介も、誠のことを同じように感じていたのかもしれない。ふたりでいると、自然と肩の力が抜けて、妙にくつろいだ気分になった。ほかの連中とは決してしない話も、佑介とだけは何時間でも語り合えた。
そんなふたりの関係を、決定的に変えてしまったのは、やはり、岡林なのだろうか……
岡林の泣き顔がまぶたに浮かんだ瞬間、清水をたたえた沢へ乱暴に足を踏み入れたかのように、誠の心が
つい先ほどまでの罪悪感はあっけなく消え去って、憎悪にも似た感情があふれだす。
ろくな覚悟もなしに、なぜ自分の想いを打ち明けた?
あっけなく捨ててしまうくらいなら、どうして付き合ったりしたのだ?
告白されるずっと以前から、岡林は佑介のことを好いていた。ふたりが交際しているあいだ、岡林は見るからに幸福そうだった。
だからこそ、誠は自分の気持ちにふたをした。生涯、誰にも言うつもりはなかった。
それなのに、何の落ち度もない岡林に、佑介は一方的に別れを告げたのだ。
離れる理由があったのなら、それをきちんと説明すべきだったのに……
佑介は、悪い意味で自己完結型の人間だ。元々思い込みが激しいうえに、自分の感情を言語化し、相手にうまく伝えることができない。
そんな性質を、十分理解しているにもかかわらず、誠は佑介を許すことができなかった。
ひとたび怒りに火がつくと、それは誠のうちに潜む、暗く湿った場所へと突き進む。どん詰まりの袋小路へ追い詰められても、怒りの業火は消えることなく、熾火のようにくすぶりつづける。
怒りの再燃に気づいた誠は、陰鬱な思考を断ち切るように、ぬるくなったコーラをひと息に飲み干した。
革ジャンを羽織り、ヘルメットをかぶる。外界から遮断され、静寂が誠を包む。
この瞬間、「樋口誠」は消失する。
あとに残るのは、人格など存在しない、ただの
誠がバイクに魅せられた一番の理由は、ここにある。
常に何かを考えずにはいられない、そのうえに、思考が暗い方へと向かいがちな誠も、バイクに乗っているときだけは、完全な「無」になることができるのだ。