第16話 泡沫(うたかた)
文字数 923文字
そんな連中を尻目に、誠はさっさと教室をあとにした。
向かった先は池田オートサイクル。バイクと自転車を扱う家族経営の店で、販売もするが修理をメインにしている。五十年配の経営者がほとんどすべての修理を請け負い、
受験のために一条高校へ向かっていた道すがら、「アルバイト募集」の貼紙を目にした誠は、入試を終えた足で店を訪れ、雇ってほしいと願いでたのだった。
「そう言うたち、お
あきれ顔の社長に、誠は胸を張って断言した。
「手ごたえは十分ありましたけん、問題ないがです」
「たいした自信やにゃあ! 気に入ったでぇ」
社長はさも愉快そうに笑い、「ほいたら、ウチに
一条高校は、幡多地区では最も偏差値が高い。中学に入ったときから、誠は一条へ行くと決めていた。勉強は得意だったし、不安は
おまけに、樹をたぶらかした水田は、県立高校トップの大手門を受験すると言う。誠が唯一の
そんなとき、樹が一緒に高知へ行かないかと誘ってくれた。
その瞬間、目の前に、それまで想像もしなかった、新しい世界が広がってゆく気がした。
——工業で最新の技術を身につけてみぃ、日本中どこへ行ったち、喰いっぱぐれんでぇ
樹の従兄、敏郎のことばを思い出し、高知の工業高校へ行きたいと思った。
最先端の技術を学び、どこでも好きな場所へ飛びたっていける。
水田の誘惑から樹を守ることだって、できるかもしれない。
そんな、実現するはずもない未来を、つい、思い描いてしまったのだ……