第14話 溺愛
文字数 1,167文字
ひと目見たら決して忘れそうもない、この車の持ち主を、誠はよく知っている。
誠が急ブレーキをかけると車も停まり、後部座席の窓から、隣家の
「えいとこで
「なんや、樹のヤツ。はやホームシックになりよったがか?」
「そりゃあ、もう、ひどいモンぜ。べそべそ泣きよるけん、慰めちゃってくれや」
そんな冗談を交わしたあと、誠は潮たちに別れを告げて駅へ向かう。
樹が高知へ
潮と話しているとき、運転席で
一生に一度の願いだと、誠が地べたに頭を擦りつけたとき、保は聞き入れてくれなかったのだ……
今さら同情などいらない。もう、何も期待しない。
自分の願いは、自分ひとりの力で叶えてみせる。
駅までつづく緩やかな坂を、誠は猛スピードで駆け下りた。
駅に着くと、佑介と耕太郎の姿があった。誠に気づいたふたりが、嬉しそうに手を振る。
「
誠の問いかけに、耕太郎はかぶりを振った。
「堅悟のヤツ、兄ちゃんの使い古しのバイクもらいよったがで」
四月生まれの堅悟は、仲間たちに先んじて春休み中に二輪の免許を取得していた。
「あいつ、俺を積んでっちゃる言いよったに、姉ちゃんが許してくれざったがや」
耕太郎は不服そうに頬を膨らませる。
耕太郎の五歳上の姉である千代子はしっかり者で面倒見がよく、弟たちの行動には常に目を光らせていた。
「ふたり乗りは危ないけん、心配ながやないか? なんやかや言うたち、千代子姉ちゃんにとって、お前は大事な弟やけんにゃ」
自分で言っておきながら、誠はなんだか無性に寂しくなった。
「けんどよ、自分で免許取れるまで待ちよったら、俺ぁ来年までバイクに乗れんがぞ!」
誠の気持ちなど知る
「気の毒やけんど、こればっかりはどもならんでぇ。俺も、二学期までは汽車通学ぞ」
佑介が
「誠は七月生まれで、樹は五月やろう? あいつ、高知の教習所に通うろうか?」
「樹はバイク乗れんでぇ。高校のあいだは二輪の免許は取らんゆう約束で、高知へ行きよったがやけん」
ふたりに告げながら、誠は胸のなかでつぶやいていた。
(どいつもこいつも、アホみたいに、愛されちょうけんにゃあ……)